機械vs人間の競争、行きつく先は……?(2/2 ページ)

» 2016年02月17日 07時35分 公開
[櫨浩一ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所
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残される分配の問題

 さらなる進歩が引き起こす問題への対応も必要になるだろう。人間が行う高度な判断や意思決定の能力を学習して身に付けるコンピュータの普及は、ほとんどの人が働かなくても、社会全体としては有り余るほど豊富な生産物が供給できるという夢のような社会が実現できることを意味する。

 しかし、働く必要がなくなるということは、同時にほとんどの人が豊富な物資を入手する術を持たないかもしれないということも意味している。

 これまでも、常に機械化で人間の仕事が奪われてしまうのではないかという不安はあった。しかし実際には、経済全体では機械で代替できないような事務や企画を行う、いわゆるホワイトカラーの大幅な増加が起こり、仕事がなくなるということはなかった。

 工場では機械を操作する人間が必ず必要となり、労働者一人当たりの生産性が上昇したため賃金は飛躍的に上昇した。社会主義者が予言したように多くの人が最低限の生活にとどまるというようなことは起こらず、すべての人の生活は豊かになった。

 アダムスミス流の「神の見えざる手」によって、何もしなくても自然にすべての人たちの生活が向上したと考えるのは、少し単純すぎるだろう。政府がすべての子どもに教育を提供し、医療や年金、失業保険などの制度を整備したことは、社会主義者の予想を覆すのに大きな役割を果たしたと考えられる。

 ピケティの「21世紀の資本」やアトキンソンの「21世紀の不平等」という格差問題を取り上げた書物が注目を浴びている。目前の経済や金融の不安定さを乗り切った先には、さらなる進歩によって生まれる問題にどう取り組むべきかという課題が待ち受けているのではないだろうか。

著者プロフィール

櫨浩一(はじ こういち)

ニッセイ基礎研究所 専務理事

東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授

研究・専門分野:マクロ経済・経済政策


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