どうすれば救えるのか シリアで人質の日本人を世界を読み解くニュース・サロン(1/5 ページ)

» 2016年06月09日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

世界を読み解くニュース・サロン:

 今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。

 欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。


 5月30日、シリアで国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「ヌスラ戦線」に拘束されているとみられるジャーナリスト・安田純平氏の最新映像が公表された。

 安田氏は2015年6月に内戦状態のシリアに入って間もなく拘束されたと見られ、すでに1年ほどが経過している。報道によれば、ヌスラ戦線と思われる組織は、1カ月以内に身代金1000万ドルを支払うよう要求しているという。この状況に日本政府は、最近の人質事件と同様に、全力で対応に努めているが身代金支払いの要求には応じない方針だとしている。

 言うまでもないが、過激派組織の人質になる人は少なくない。最近のヌスラ戦線だけを見ても、2015年7月にスペイン人ジャーナリスト3人を拘束して、2016年5月に解放している。このスペイン人3人は一時期、安田氏と同じ場所にいたことが判明しているが、1人につき370万ドルの身代金をスペイン政府が支払ったことで無事に帰国した。

 世界的に見てもテロ組織による身代金要求への対応はまちまちだ。日本のように身代金を払わないという方針の国もあれば、スペインをはじめとする欧州諸国のように支払いを行う国もある。では日本政府は、人質を解放させるにはどうすればいいのか。ひとつ確実なことは、世界の例を見る限り、イスラム過激派組織の手から人質を解放するための選択肢はあまりないということだ。

 こういう話になると、人質というのはジャーナリストなど特殊な人たちの話で一般人には関係ないという印象があるかもしれない。だが実は最近、アジアの観光地でも旅行客がイスラム過激派に人質として殺害されている例も出ている。

 2015年9月、バケーションでフィリピン・サマル島の高級リゾートを訪れていたカナダ人男性が、別のカナダ人男性とノルウェー人、そしてノルウェー人の彼女であるフィリピン女性と4人で、フィリピンを拠点に活動するアルカイダ系イスラム過激派グループ「アブサヤフ」によって誘拐された。実はその際、同じリゾートにいた日本人女性も誘拐されそうになったが、ボートから飛び降りてなんとか逃げ切ったという。

 アブサヤフは人質1人につき650万ドルの身代金を要求し、2016年4月25日までに支払いがなければ、1人を斬首するとしていた。だがカナダやノルウェーは、政府の方針で身代金を払うことはない。カナダの場合は、過去にそう言いながらも身代金を支払っていたことが判明しているが、今は支払わない方針を以前にも増して強めている。また人質の家族が独自に身代金を支払うのも違法である。

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