ここまでお話をすれば、今回の「ヌーハラ騒動」を筆者が「恐ろしい」と言った意味が分かっていただけたのではないだろうか。
誰が唱えたか分からないような「風説」を、全国ネットのテレビ番組が取り上げるだけではなく、大物司会者や大物芸能人がこぞって「外国人にとやかく言われる筋合いはない!」などと「怒り」や「不快感」を煽動している。いくら視聴率低迷だと言われても、この国の人々の7割はテレビや新聞を「信頼できるメディア」だと思っているという調査結果もあるのだ。
著名人の自殺をセンセーショナルに報道をすると、自殺者が増えるという研究がある、メディアの報道が自殺を煽っているというのだ。トンデモ話ではなく、実際にこれを受けてWHOが自殺報道のガイドラインを作成し、「過剰に、そして繰り返し報道しない」など自粛を求めている。それは裏を返せば、マスコミ、特にテレビには人の理性的な判断力を奪う「力」があると認めているということだ。
今回、ヌーハラを唱えた「戦争法廃止の国民連合政府応援隊」というアカウントの方は、騒動を受けてこんなつぶやきをされた。
『われわれが暴いたヌーハラの真実によって上を下への大騒ぎになってます。そしてなぜか外国人に対するヘイトが日本中に吹き荒れています。意味がわかりません』
この方は違うと信じたいが、世の中には明確な意志をもって「デマ」や「風説」を流す方もいる。マスコミの「力」を悪用して、人々の「憎悪」や「対立」を煽って社会に混乱を引き起こしたいと目論む人もいる。
日本のマスコミは、そういう悪意に対して驚くほどウブというか危機感に乏しい。ということは、マスコミが「これは大問題です!」と鼻息が荒くなっている時こそ、我々は冷静にならなくてはいけないということではないのか。
「ヌーハラ騒動」から日本社会が学ぶことは多い。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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