イトーヨーカ堂の反撃は始まっている新連載・小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2017年02月06日 06時45分 公開
[中井彰人ITmedia]

 2016年上期のイオン、イトーヨーカ堂、ユニーなどの大手GMS(総合スーパー)の業績は軒並み減収、赤字決算となり、すこぶる振るわない状況にある。

 各社は、不採算店の閉鎖、店舗改装、テナントミックスの変更などの施策を発表しているが、あくまでも対症療法の感はぬぐえない。抜本的な解決策を見つけられていないGMS各社の苦悩は当分続くことになるだろう。ただ、企業ごとに見た場合、各社の置かれた状況は一律ではない。実は、起死回生の一手となるカードを保有している企業がある。それがイトーヨーカ堂である。その理由は、他のGMSとの店舗配置を見れば一目瞭然だ(編集部注:以下、運営企業を「イトーヨーカ堂」、店舗を「イトーヨーカドー」とします)。

駅前の好立地にある「イトーヨーカドー 大井町店」 駅前の好立地にある「イトーヨーカドー 大井町店」

立地戦略が異なるイトーヨーカ堂

 現在の大手GMSの顔ぶれは、今世紀初頭の金融危機を乗り切った勝ち組と言えるが、その店舗立地を見てみると興味深いことが分かる。いち早くクルマ社会の到来に適用して郊外のロードサイドに大型店を展開したイオンおよびユニーと、東日本、特に首都圏に集中した店舗配置を構築したイトーヨーカ堂の立地戦略はまったく異なるのだ。

 特にイトーヨーカ堂は唯一の東京出身企業という歴史的な背景から、首都圏の主要駅前を見事に押さえている。例えば、大井町や武蔵小杉など、なぜこんな駅前の一等地にあるのだろうと思っている人も多いはずだろう。

 クルマ社会の到来以降も駅前立地の「イトーヨーカドー」がロードサイド立地のイオンやユニーとともに生き残ったのかと言えば、答えは単純で、関東、それも首都圏主要部はクルマ社会にならなかったからだ。

 高度経済成長期以降、急速に進行した日本のモータリゼーションによって、公共交通の充実していない地方の買い物来店手段はクルマにシフトした。加えて、2000年代以降には買い物の主役である女性の免許保有率の上昇とパーソナルカーとしての軽自動車の普及が進んだことで、地方での買い物はクルマを使うことが一般的となった。この結果、ほとんどの地方都市の中心市街地は交通の結節点としての重要性を失い、急激に商業立地としての価値を失ってしまった。

 しかし、公共交通が充実している首都圏や京阪神では、クルマは移動手段の選択肢の1つでしかない。あくまでもメインの移動手段は、公共交通であり、鉄道駅前の商業立地の価値は揺るがなかった。特に世界一とも言われる首都圏鉄道網は、新線、延伸、乗り入れによって利便性を向上させ続けている。首都圏における若者のクルマ離れも公共交通の必要性をいっそう際立たせている。

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