“売れるチョコ”の甘くないマーケティング戦略Minimal山下社長に聞く(1/3 ページ)

» 2017年02月14日 11時44分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 2月14日はバレンタインデー。読者のみなさんにとっては悲喜こもごものイベントかもしれないが、ビジネスとしても大きな意味がある。

 成熟している日本の食品市場。特に菓子は低価格帯のものが多いのもあり、停滞や縮小が目立つ。そんな中で、チョコレート市場は近年伸び始めているのだ。2011年度から徐々に伸び始め、15年度には初の5000億円を突破した。この数字は、既に和菓子市場を追い抜いている。

 市場をけん引しているのは、お手軽に食べられたり機能性を押し出していたりする低価格帯と、海外ショコラティエをはじめとする高価格帯の2軸だ。

 「チョコレートは二極化しています」――そう教えてくれたのは、「Bean to Bar」と呼ばれるタイプのチョコレート「Minimal」を製造・販売するβaceの山下貴嗣社長だ。

「Bean to Bar」と呼ばれるタイプのチョコレートを製造・販売するMinimalのオーナー山下貴嗣社長

 「市場の伸長に特に寄与しているのは高級チョコレート市場。高級チョコレートは贈答用が多いと思いきや、“自分買い”“ご褒美買い”が増えているんです。必ずしも可処分所得が高い人が買うわけではなく、“週末の自分へのご褒美”として買っている」

 こうした風潮は、イベントの活況を見れば一目瞭然だ。1年に1回開催されるチョコレートのイベント「サロン・デュ・ショコラ」(伊勢丹主催)は、年々入場者が増加し、会場が新宿伊勢丹本店から15年には新宿NSビルに。17年には有楽町の東京国際フォーラムに移った。入場者数は16年の1.5倍になり、初日には5000人の行列が。限定品に5〜6時間並ぶような光景も珍しいものではなかった。

 Minimalも、こうした“チョコレートブーム”の波に乗っている。14年に起業し、初年度から黒字。2年目は300%成長で、3年目も250%に着地する見込みだ。店舗は富ヶ谷、銀座、白金高輪の3つ。当初は生産が追い付かず売り切れが出てしまっていたが、白金高輪に生産能力が高い工房を作り、卸を開始。「DEAN&DELUCA」などのショップでも取り扱いを始め、着々とファンを増やしている。

“新しい客”つかむMinimalのチョコ

 Minimalのチョコレートは、いわゆる“板チョコ”だ。一般的な板チョコと違うところは、「Bean to Bar」――カカオ豆の生産や仕入れから携わり、板チョコまでを一貫して作る製造工程だ。米国や欧州で広まり、日本でも15年ごろから目立つようになってきた。

 袋を開けると、カカオ豆の濃厚なにおいがふわっと立つ。豆や焙煎度が違い、果汁や香料を使っていないのに、柑橘系の味を感じたり、ワインのような風味があったり、ハーブ酒を飲んでいるような感覚がある。ざらっとした口当たりも新しい。チョコレートは女性客が多いのが一般的だが、30〜40代の男性客が4割いるのが特徴的だ。

 「Minimalのチョコレートは、気軽に手に入る安いものと、宝飾品のような高級品の、ちょうど中間地帯にある「嗜好品」。メインのターゲットとしているのは、空間や時間の過ごし方に対して、自分の嗜好をしっかり持っている男性。モノづくりやクラフトが好きで、コーヒー、ワイン、シガーも好きな方々ですね」

 この層は、これまでチョコレートの市場にいなかった“新しい客”だ。Minimalのチョコレートに対して「ちょっと男っぽい」「高級よりも洗練」「キラキラじゃなくてクラフト」というイメージを抱いてやって来る。どうやって彼らを呼び寄せているのだろうか。鍵は“コラボレーション”にあった。

 「積極的に、他社の製品とコラボを行っています。そのために積極的に行っているのがコラボレーションだ。キリンのビール「グランドキリン」や丸山珈琲など、30〜40代の男性が好む飲料と相性がいいチョコを製造して、セット販売を行っています」

 ビール、コーヒー、ウイスキーといった嗜好品と、Minimalのチョコレートは親和性が高い。客をお互いのプランドに送り合う効果があり、ほとんどすぐ売り切れるという。男性誌にも取り上げられることが多い。

 富ヶ谷の本店にはカウンターがあり、店内でチョコを楽しめる。「1時間に100人をさばくよりも、“10人のお客さんの反応”を見て、お客さんとコミュニケーションを取りたい。効率だけを考えたら正しくないかもしれないが、ブランド構築や職人のモチベーションにとってこの方式が一番だと思った」と山下氏は語る。

富ヶ谷の本店。富ヶ谷はカウンターだが、各店舗コンセプトや作りは大きく異なる
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