「二部降格は覚悟している」東芝の危機的状況「新生東芝」うたうも……

» 2017年03月15日 08時02分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 東芝が危機的状況にある。東証一部から二部への降格はほぼ確実で、上場廃止の可能性も十分にある。原発事業の巨額損失を抱え、主力のメモリ事業を手放す必要に迫られている同社は、今後どのような生き残りの道を選ぶのか。3月14日に行った記者会見で綱川智社長が語った。

3月14日の記者会見で綱川社長は深く頭を下げた

 本来3月14日は、一度延期となった2016年4〜12月期の決算発表日予定日だった。7000億円超という巨額の損失を計上した米原発事業において、原子力サービス会社の米CB&Iストーン&ウェブスターを米子会社のウエスチングハウス(WH)が買収した際、取得価格配分手続きの過程に一部経営者からの「不適切なプレッシャー」があった可能性を示唆する内部通報があり、調査を進めるために決算発表を1カ月延期していたのだ。

 しかし調査を進めるうち、監査委員会の評価や独立監査人のレビュー手続きにさらに4週間程度の期間を要すると判明し、第3四半期報告書提出期限の再延期を申請。関東財務局から承認を受け、開示日は4月11日を予定することとなった。

 同日東芝は、東京証券取引所と名古屋証券取引所から、上場廃止の可能性があると投資家への注意を促す「監理銘柄」を受けた。15年9月15日の「特設注意市場銘柄」指定から1年半が経過したためだ。不正会計を生み出した社内体質など、特設注意市場銘柄指定となった要因の再発防止策が講じられたと認められなかった場合、上場廃止は現実味を帯びる。

 「株主資本がマイナスになるので、東証二部への降格は覚悟している。厳しいことはあるが克服して進めていきたい。社会に対する信用を確保しつつ、上場廃止にならないように続ける努力をしたい」(綱川社長)

「今後の東芝の姿について」冷ややかな反応

 綱川社長は「今後の東芝の姿について」と題し、今後の戦略を発表。東芝は、(1)WH社の売却も視野に入れた海外原子力事業のリスク遮断、(2)分社化したメモリ事業やその他保有資産の売却での財務基盤の早期回復と強化、(3)ガバナンス・リスク管理を深化し東芝グループ組織運営の強化――の3点をポイントとし、業績と信頼回復を狙う。

東芝の今後の戦略(=東芝発表資料より)

 「東芝が再び成長できる姿になるためには、大幅な見直し、事業形態の変化、ぜい弱な財務基盤からの早期脱出という、困難と痛みを伴う一層の改革が必要。再度成長軌道に乗れるように努めていく。過度な成長戦略を求めた過去の経営と決別し、健全な経営への一歩を踏み出す」(綱川社長)

 しかし、報道陣やアナリストの反応は冷ややかだった。

 WHの売却は以前から検討されており、東芝は「こちらからお支払いすることもありうる」ともコメントしたが、“火中の栗”であるWHの買収に興味を示す企業はいまだ浮上していない。現時点でも赤字を生んでいるWHは中国での原発稼働を予定しているものの、一部報道では中国でも稼働延期の可能性があると言われているのだ。さらなるリスクの懸念もあるWHの株式引き受けの可能性は高くはない。

 リスク遮断のためには、売却以外の方法も考えられる。チャプター11(米連邦破産法第11条)を適用し、破産申請を行うこと。追加の損失が発生するリスクを飲み込み、原発事業からの完全撤退を行う。また政府支援の可能性もあり得る。綱川社長は「いろいろな選択肢はあるが、現状では決まったことはない」と言葉を濁した。

 東芝の主力事業のメモリ事業には、既にいくつかの企業が買収に名乗りを上げている。WD、マイクロン、韓国SKハイニックス、鴻海(ホンハイ)、紫光集団など、挙がっている企業名は外資ばかりだ。「このままでは日本の最先端技術が海外に流出してしまう。買収を検討している日本企業はいないのか」といった質問があったが、「まだ言えない状態」なのだという。

「新生東芝」どう変わる?

 3つの取り組みがうまく機能したとして、メモリ事業を失った新生東芝はどのようなビジネスを展開していくのだろうか。

 注力し、新たに事業の核とするのが、社会インフラ、エネルギー、電子デバイス、ICTソリューションの4分野だ。売却報道が出たPOSレジ最大シェアを持つ東芝テックも含んでいる。

 東芝の16年度の売上高は5兆5200億円。そのうち、メモリ事業が8766億円、WHが6800億円を占める。これらを除いた3兆9600億円の売り上げが新生東芝を支えていく。

今後の売上高・営業利益は……(=東芝発表資料より)

 17年度の売上高は、メモリ事業で9000億円、WHで8500億円、新主力4分野で3兆8500億円を目指す。メモリ事業の完全売却、WECのリスク遮断(売却、完全撤退)があれば、同社の売上高は前年度から大きく落とし4兆円を割ることになる。

 同社は19年度には、売上高6兆1000億円(メモリ1兆2000億円、WH7000億円、主力4分野4兆2000億円)、営業利益5100億円(メモリ2300億円、WH700億円、主力4分野2兆1000億円)を超える計画を立てた。

 成長を期待するのは、公共インフラ、ビル・施設、鉄道・産業システム、リテール&プリンティングを含む社会インフラ領域だ。既存の安定収益に加え、中国やインドへの進出や、電池(SCiB)や昇降機などの成長療育への積極投資を行い、事業を拡大するという。

 また、メモリ事業を除く電子デバイス領域も回復を想定。15年の構造改革で収益構造が改善していること、IoT・社債市場の急成長から、19年度には営業利益450億円を見込む。しかし報道陣やアナリストからは「縮小するHDD事業を含むこの領域にそこまでの成長可能性があるのか」といった懸念が示された。

 さらにこの青写真にもリスクは存在している。エネルギー事業のポートフォリオに組み込まれているフリーポートLNG(液化天然ガス)事業だ。販売先探しが難航しており、最大約1兆円の損失リスクを抱えていると報道されている。新生東芝の「売上高4兆円超、ROS(売上高利益率)5%」という目標は、かなりチャレンジングであると言わざるを得ない。

 「『新生東芝』という言葉は2015年に生まれたものだが、今回のことでいったん振り出しに戻ったと考えている。新たな気持ちで『新生東芝』を目指し、再度チャレンジしていきたい」(綱川社長)

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