ユニクロやセブン-イレブンジャパン、明治学院大学など多数のブランディングを手掛けてきたクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏。日本を代表するクリエーターであり、多くの人がその名を見聞きしたことがあるはずだろう。
記者が初めて佐藤氏のプロダクトデザインにユーザーとして直に触れたのは、NTTドコモの携帯電話「FOMA N702iD」だった。それまで主流だった丸みを帯びた形状とは異なり、長方形でスタイリッシュなデザインが消費者を魅了し、その販売数は100万台を超えた。
その製品が世に出た2006年から、佐藤氏は愛媛県今治市の名産「今治タオル」のブランディングプロジェクトに携わっている。タオルは元々、明治時代から続く今治の主産業だったが、1990年代初めに中国産の安い製品が日本に入ってきたことなどで、市場シェアを奪われ危機的状況に陥った。売り上げ減少の歯止めが効かない中で、何とかしようとスタートしたのがこのプロジェクトだった(関連記事:衰退一途の今治タオルが息を吹き返した“大事件” )。
あれから11年。今治タオルプロジェクトで取り組んできたこと、そこから見えてきた地方ブランディングが成功する条件などを佐藤氏にインタビューした。
――この約10年間で今治タオルのブランドを確立し、世の中に浸透させることができたと思います。次の10年に向けて今治タオルをどのように進化させていくのでしょうか?
ありがたいことにこの10年間で今治タオルというマスターブランドはある程度確立できたかなと思います。次のフェーズは、今治タオル工業組合に参加する各社にもっと利益がいくように、マスターブランドを利用して各社がきちんとプロモーションできるようになればと考えています。そのためのマスターブランド作りだったわけですから。
マスターブランドをしっかり確立するために、各社それぞれが特色を出すよりも先に、「今治」というものを前面に出すべきだというのを、プロジェクトの立ち上げ時からいろいろと厳しく言っていました。
それがようやくここまで育ったので、例えば(フランスワインの産地である)シャンパーニュ地方でさまざまなシャトーが特徴的なワインを作っているように、今治タオルも各メーカーが独自性を出していければいいと思います。実際、タオルの作り方がまるで違う会社もありますから。消費者側もそこからお気に入りの1枚を見つけたり、もしくは用途によって各社の製品を使い分けたりなど、そこまで理解が進んでいけばブランディングとしては最高ですよね。
――この10年は今治タオル全体としての価値を高めるということなので、ある意味、販路なども各社横並びだったわけですね。これからはどんどん競い合っていくということでしょうか?
そうですね。もちろん横並びでやっている部分はありますけど、今でも既に競争環境はあります。今治タオル本店というのは、実は厳しい場所で、いろいろなメーカーのタオルが並んでいます。ドンと売れるものもあれば、売れないものもあって、一目瞭然で売り上げ数字が分かります。売れないと売り場から下げられますし。
一方、ここ2〜3年で各社が東京に自分たちの店を出す動きが活発になっています。今後はこうした競争環境がもっと作られていけばいいと思います。そうして青山、代官山あたりにタオル専門ショップが増えていき、そのエリアが「タオルストリート」や「タオルビレッジ」などになればおもしろいですね。タオルを買いに行くならまずは南青山をブラブラしようと。
こないだ文化庁の文化交流使の仕事で英国・ロンドンに行きました。ロンドンには「ジャーミンストリート」という通りがあって、そこに行けば老舗の靴屋やシャツ屋、テーラーなどがほとんどそろっています。ロンドンでクオリティが高い紳士物を買いたければ、とりあえずそこを歩けとなるわけです。タオルもそういう風になっていければいいと思います。
――そのストリートに泉州(大阪)や三重など、ほかの産地のタオルも参入したらおもしろいでしょうね。
今、多くの人にとって今治タオル以外のタオルがどこのものなのか、なかなか分からないと思うのです。それほど今治タオルを強烈にブランディングしましたから。ただし、良い意味で競争が起きてないので、そうやって他社が入ってくるのは良いことだと思います。
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