「自分爆発レディ」? 命名の意図、博報堂に聞く「負担と不安の裏返しとしての爆発」

» 2017年06月09日 12時31分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 「自分爆発レディ」という言葉が物議を醸している。子育てを終えた40〜60代の女性は、これからは夫婦2人の時間より「自分1人の時間を楽しみたい」という人が増えている──として、博報堂の「新しい大人文化研究所」が命名した。女性は1人や友達、母娘での行動を求めており、ブームや消費をけん引しているのだという。

 同研究所が6月7日にこうした調査結果を発表すると、TwitterなどSNSで話題に。「自分爆発」という言葉のインパクトが強かったためか、「女性が自分の時間を楽しんでいるだけなのに」と反発する声も多かった。

 なぜ「自分爆発レディ」と名付けたのか。同研究所の担当者に話を聞いた。

「自分爆発レディ」の命名意図は?

――「自分爆発レディ」の命名の意図について教えてください。

 「爆発」という言葉は「自分勝手、好き勝手に行動している」という意味ではなく、「負担からの解放感」という意味をこめています。「自分」を犠牲にせざるを得なかった女性たちが、子どもが独立することで自分を一番に考えることがやっとできるようになり、爆発的に行動をしているイメージです。

 子育ては、男性(夫)とはある意味比較にならないほど女性(妻)にとって、大きな存在になっています。子どもが中高生になって手が離れたり、就職して独立したりするまでは、「子ども第一」「自分のことよりも子どものことを優先する」という生活を送っている女性は少なくない。

 そうした日々の重圧が、子どもが独立したときに男女の差として出てくる。男性は「夫婦2人に戻る」という思いを抱きますが、女性は「やっと『自分』に戻れる」という感じ、「1人の時間を楽しみたい」という気持ちにつながります。

――ネットで話題になったことを把握していますか? 印象に残った反応はあるでしょうか。

 Twitterで話題になっているのは把握しています。全てのツイートを見れているわけではないですか、「そうはいっても、気楽に爆発できないよ」というようなコメントは見ました。

 日本女性は真面目なので、子どものため、夫のため、家族のためと普段抑えているものがある。発表したレポートにも記載していますが、「自分爆発レディ」の爆発は、不安の裏返しという側面もあります。

 例えば韓流のタレントブームのピークの時、熱中していた女性たちは、さまざまな不安を抱えていました。夫の定年後の不安や、家族や友人とのコミュニケーションにかかる不安や、親の介護への不安など。こうした不安の裏返しとして「思い切り楽しみたい」という気持ちがある。趣味や遊びで爆発しているから、また明日から頑張れる、というわけです。

さまざまな不安を抱いており、その裏返しとしての「爆発」

――負担や不安の裏返しとしての「爆発」というわけですね。今回の調査で新しく出てきた傾向はありますか?

 今までも、子育てが終わった女性たちは、仲間や母娘と行動する傾向がありました。新しく出てきた傾向は「1人」です。特に今の40〜50代は、「おひとりさま」が楽しめる人たち。そのことは、調査結果だけではなく、「大人の1人旅」というような企画がブレークしていることからも見てとれます。おひとりさまができるから、自分1人の旅行でも楽しめる。いい意味で強い女性になっています。

「1人」での行動を楽しむ女性が増えている

――結果を見ると、男女で意識の差が生まれていて、熟年離婚などにもつながるように思います。なぜすれ違いが生まれるのでしょうか。

 なぜこの差が生まれるかというと、夫が妻のことを考えていないからです。特に40代くらいになると、子どもに関するさまざまな問題が出てきます。ところが妻が夫に相談すると、「今は仕事が忙しいから任せる」と託してしまったり、「お前の責任だ」と責めたりして、結局子どもの問題は妻が1人で解決してきたような夫婦が少なくない。

 そんな夫婦のコミュニケーションを送っているから、子どもがいなくなってから夫が「これからは夫婦2人の時間を過ごそう」と言っても、「1人で過ごしたい」「友達との時間を持ちたい」と返されてしまう――というような調査結果が出るのではないでしょうか。

 もちろんこの問題は熟年離婚の原因のベースにもなっていると思います。日本は家庭内別居など家族としての関係が成立していない状態の夫婦がいて、熟年離婚として数字に出ている以上にもやもやした思いを抱えている人が多いです。

 博報堂の「新しい大人文化研究所」は、これまでもさまざまな調査レポートを出していますが、夫婦のすれ違いは大きな問題として存在しています。特に50代で顕著なのですが、夫と妻が別のことを考えて、違う方向を見ているのです。

――新しい大人文化研究所による研究は、シニア市場へのマーケティングに活用することを想定していると思います。例えば今回の研究だと、シニア女性の「1人」「友達」「母娘」消費をターゲットにしていくなどが考えられます。研究を発表していく中で、マーケティング活用以外に目指していることはありますか。

 問題提示だけではなく、「ではどうすればいいのか?」という答えについてもレポートしていきたいと思っています。実は、夫婦の間では歩み寄りも始まっているんです。夫婦の時間を調査していると、会話する時間、話を聞く時間、一緒に買い物に行く時間が2012年ごろから増えてきています。

 なぜかというと、今の60代くらいからは恋愛婚世代だから。すれ違いが起こると、夫は恋人時代のことを思い出し、「妻の話を聞こう」「デートに行こう」「家事に参加しよう」と思うようになる。1回や2回だと妻は「いまさら……」と不満を抱くので、すぐに夫婦仲が改善するわけではないのですが、最新の調査では夫の努力がやや結びつつある状況が見えてきています。このレポートは今後公開予定です。

 「夫婦での旅行や外食にお金をかけていい」と考える人は多い。夫婦仲が縮まっていけば、社会的にもプラスですし、大きな消費が起こると考えています。

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