「無印良品」がデジタルで生み出す“リアル体験”顧客満足度向上へ(1/2 ページ)

» 2017年07月12日 15時30分 公開
[ITmedia]

 ITmedia ビジネスオンライン主催のセミナーイベント「顧客接点のデジタル化 競合他社に差をつけろ! 顧客起点に立ったビジネスモデルの実現」が6月26日、都内で開催された。

 特別講演は「無印良品」を運営する良品計画。スマートフォンアプリなどを活用したデジタルマーケティング戦略や顧客とのコミュニケーションの考え方などを紹介した。

photo 良品計画が提供するアプリ「MUJI passport」(出典:「無印良品」Webサイト

マインドシェアを上げる

 オープニングの基調講演では、ローランド・ベルガ―のプリンシパル、高橋啓介氏がコンサルタントの視点から、顧客接点の作り方を解説した。

 SNSの発展やビッグデータ活用など、デジタル化が進むことによって、顧客接点の量と質を増やすことができるようになった。そのため、幅広い顧客と幅広いつながり方ができるようになる。高橋氏は「自社のファンを生み出すことの“本質”」について語った。

 従来は、自社の管理顧客に対してサービスを手厚くしていくやり方が有効だったが、今後、そのやり方では「縮小市場でパイを奪い合うだけになる」と高橋氏は指摘する。デジタル化によって、購買の瞬間だけでなく、購買前の心理や購買後の生活シーンなど、顧客と多様な接点を持つ機会が増えた。そのため、日々の活動の積み重ねにより、「ほしい」という気持ちにさせることが必要になる。

 「これまでは購買の瞬間を重視し、モノのシェアを高めることが必要だった。これからは、それよりも日々のお付き合いで『いいね』と思ってもらい、いざというときに思い出してもらう。マインドシェアを上げることが必要」(高橋氏)。

顧客との関係を深めるステップ

photo ローランド・ベルガ―のプリンシパル、高橋啓介氏

 それを実践するためのステップは3つある。まず、今まで以上に幅広い顧客と触れ合い、パイを拡大することだ。そのためには、既存顧客だけにこだわらずに「顧客を再定義」してサービスを提供すること、ブランドを発信する場を設けて「シーンに入り込む」こと、「触れるきっかけをつくる」こと、触れていない客にアプローチして「とにかく触れに行く」ことの4つの方法がある。

 高橋氏は事例として、顧客の定義を再定義・拡大したNTTドコモの“dポイント経済圏”、日常に溶け込み顧客との触れ合いを目指しているメルセデス・ベンツの取り組みなどを挙げた。

 2つ目のステップは、頻度よく対応して顧客の気持ちを高めていくこと。これが最も大事だ。商品を売るためのコミュニケーションしかしていないと、どのように使われているか、どのような気持ちになっているかも分からず、新しい提案ができない。顧客と対話していくことが必要だ。その際には、一方的に押し付けるようなつながりではなく、ほどよい距離感を保つことが重要となる。

 そのための方法は、「日常に入り込む」こと、「こちらから体験を訴求する」こと、「対話を途切れさせない」こと、「顧客を巻き込む」こと、「パーソナルに対話をする」ことが挙げられる。「無印良品」の良品計画などは、顧客のコミュニケーションやシーンに溶け込み、商品そのものを押し付けるのではなく、「欲しいな」「使ってみたいな」という気持ちにさせるのがうまい。また、パナソニックは日本最大級の自前の会員サイトで、多頻度に顧客とコミュニケーションし、欲しいという気持ちにさせることや、いざ欲しいときに想起させることに成功している。

 そして、最後のステップは、ぴったりな刺激ある提案でファンを生み、絆を強くすること。80%の“ぴったり”と、20%の“ちょっと違う刺激”を提案することがポイントだ。例に挙げたのは、資生堂の会員サービス「花椿CLUB」。顧客別の美容カウンセリングサービスを提供する。それぞれの顧客と日常的に触れ合い、理解しているからこそ、最適なお手入れのアドバイスと新しいメークの提案ができる。「『実はこのメークも似合いますよ』というプラスアルファの提案は、顧客のことが分かっているからこそできる」(高橋氏)。

 他にもプラス20%の提案ができている企業として、「ZOZOTOWN」のスタートトゥデイや良品計画などを挙げた。

 高橋氏は「大事なのは、とにかく幅広いお客さんと接点を持ち、押し付けではなく頻度よく対話をすることで顧客の気持ちを高めること。デジタルはあくまでツール。デジタルとアナログの境目なく、顧客と対話を始めることが大事。そして、自社のサービスをどんな存在として感じてもらいたいのかを決めることが、先回りした提案につながる」と語り、講演を締めくくった。

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