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» 2017年08月14日 06時00分 公開

夏目幸明の「経営者伝」:マクロミルをつくった“妄想家”の軌跡 (1/3)

自ら事業を立ち上げ、会社を成長させていく起業家たち。彼らはどのように困難を乗り越え、成功を手にしたのか。経済ジャーナリストの夏目幸明氏がその軌跡を追いかける。第1回はマクロミルの創業者、杉本哲哉氏の創業エピソードをお伝えする。

[夏目幸明,ITmedia]

 優れた経営者は妄想癖がある人物が多い。彼らはいつも「こんなこと可能じゃないか?」「こんな危険が迫っているのでは?」と問い続けているのだ。

 ネットリサーチの国内最大手、マクロミルの創業者である杉本哲哉氏もその“妄想家”の1人である。

 彼は、マクロミルをわずか5年で東証1部上場にまで成長させ、その後は保有していた全株を売却して退任。現在はキュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」を運営するグライダーアソシエイツの社長を務めている。

 本稿では、この杉本氏が歩んできた軌跡と経営哲学を全3回に分けてお伝えする。

photo 杉本哲哉氏

妄想する起業家

 「僕はいつも具体的に何かを妄想しています。大学生のときも『将来はこんな仕事をして、こんなビルで働き、周囲にこんな仲間がいて、一緒にこんな昼飯を食べに行く……』などと妄想していました。その過程で『このビジネスは成功しそうだ』とか『これは魅力がない』と、ビジネスモデルの検証もしていたのだと思います。最終的に、妄想したことと近い現実を歩んでいます」(杉本氏)

 杉本氏は1992年に大学を卒業し、リクルートに入社。転機が訪れたのは入社から10年後、新規事業を開発する部署に関わったときのことだった。

 「衛星放送関連事業のなかで、テレビ画面に番組表を表示できないか検討することになったんです。技術的には可能だったのですが、本当に必要とされているのか分からない。それどころか、どんな人が衛星放送を見ているかもよく分からない。そこで、加入者アンケートを実施することになりました」

 しかし調査は役に立たなかった。インターネットが世の中に登場し始め、まだIT化が進んでいない当時は調査もアナログだった。彼らがアンケート用紙を郵送し、回答を手作業で集計し終えるまでには約3カ月も掛かった。その間に会社の状況が変わり、事業方針が変更となったため、プロジェクトもなくなってしまった。数百万円もかけたのに、全て無意味になってしまったのだ。

 このとき、彼は妄想を始めた。

 「質問や集計方法を好きに組み立てられるWebサイトがあったとします。質問が完成次第、あらかじめ登録されているモニターにアンケートを送ることができる。そして回答も自動的に集計される。これなら、顧客は圧倒的な速さでアンケート結果を手にすることができるはずだと考えました」

 アンケートをIT化すれば、調査に掛かる人件費や、紙の発送手数料など、無駄なコストもなくなるはずだ。コスト削減により、圧倒的に価格の安いリサーチサービスを実現できれば、より多くの企業や個人事業主が手軽に調査を行えるようになるかもしれない。

 そう考えた杉本氏はマクロミル創業の1年前から、仕事の合間や、電車の中、自宅で、何かにとりつかれたようにサービスの詳細を詰めた。そして年明けにはリクルートに在籍したまま、会社を登記。最終的に「会社を辞める」と腹をくくらせたのは、杉本氏がずっと心の中でくすぶらせてきた妄想を実現させたいのか、そうではないのかという自問自答だった。

 「結局、あれこれ理由をつけて可能性を放棄するのは、雑に生きてるってことだと思うんです。具体的な絵を思い付いたのなら、絶対にやった方がいいと思いました」

 こうして彼の事業が始まった。

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