第2世代SKYACTIVシャシープロトタイプに緊急試乗池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2017年09月11日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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マツダはなぜここまでやるのか?

 クルマを降りて藤原専務に聞く。「いったいなんでこんなやり方を思いついたんですか?」藤原専務は楽しそうに笑いながら答えた。「出発点はGVC(Gベクタリングコントロール)です。これまでのシャシー開発は、場面場面を切り出してそこをどうするかばかり考えていました。だけどGVCをやって、そうか、過渡域が大事なんだと言うことに気付きました。エンジンは常に過渡域をどうするかで開発してきたのですが、シャシーはそうではなかったんです」。

 「ところで池田さん、リヤサスがマルチリンクからトーションビームアクスル(TBA)になっているのに気付きました?」。絶句した。まったく気付かなかった。マルチリンクだと思い込み、気付かないまま褒めていた。TBAと言えば一番安いリヤサスペンションである。格下げも良いところだ。素直に気付かなかったことを白状した上でその理由を尋ねた。「MBDで解析していくなら、要素は少ないほど最適にできるのです」。なるほどマルチリンクはアームの数が増えて、ただでさえ複雑なシミュレーションがさらに複雑になる。解析と現実のギャップもまた増えることになるだろう。

マツダの取り組みについて説明する藤原専務 マツダの取り組みについて説明する藤原専務

 TBAは前側のブッシュにリヤタイヤの正確な位置決めと振動遮断という相反する機能が求められるから、大抵はどちらも中途半端なサスペンションになる。なぜそれであんなハンドリングと乗り心地ができるのかと尋ねると、藤原専務は「それはデミオで散々ノウハウをためましたからね」と再び自信に満ちた笑顔で答えた。

 プロトタイプなので小さな瑕疵(かし)はまだある。例えば、ステアリングの不感帯が少し足りない。ドライバーの身じろぎにクルマが反応してしまうようなところがある。そこはマツダも気付いている。「おっしゃることは分かります。ただドイツ車と同じにはしたくないんです。マツダならではのハンドリングをどうするか。もう少し頑張ります」。

 19年にデビューするとき、第2世代SKYACTIVシャシーはどういう完成度で姿を現すのか、楽しみでならない。最後にマツダがなぜここまでやるのかについて、今年2月に藤原専務に伺った話を添えて終わりたい。

 「日本の自動車会社の中で、優れた――それは乗り味や機能やデザインなどが優れたクルマを、小さいクルマから上のクルマまで格差のない状況にしたいのです。例えばデミオに乗っても『小さいクルマだから』と卑下することなく、お客さまが満足して「良いクルマに乗っている」と思える状態を作ることで、(ユーザーの)クルマを見る目を上げたい。品質やクルマの善しあしを感じるレベルを上げれば、それが結局クルマ文化を作るベースになると思うんですね。

 ヨーロッパのクルマと日本のクルマの最大の違いは何か。それはやっぱり買っている人たちの違いがあると思うんです。これはユーザーを批判しているのではなくて、その原因は、われわれが今まで日本のお客さまに、目を養うだけの製品を提供できなかったからだと思っています。だから世界レベルのものをアフォーダブルな価格で提供することで、(ユーザーにクルマを)見る目を養ってもらいたいんです。それがずっと続けば、多分日本のお客さまのクルマを見る目が上がる。そうすればきっと他のメーカーもレベルを上げなくてはならなくなる。そうすると日欧の差が減っていく。それが日本のクルマ文化が成熟していくための第一歩だと思っています」

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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