「レイプ被害者の救済システムが必要」伊藤詩織さん会見手記「Black Box」刊行(2/2 ページ)

» 2017年10月24日 19時50分 公開
[ITmedia]
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質疑応答(一部抜粋)

――日本で報道後、女性からの連絡や連帯の言葉、状況を変えるサポートはあったか。また、刑事訴訟法248条(起訴便宜主義)が危険だと思っているが、弁護士の中でそれを変える流れがあるだろうか。

 女性の弁護士からはたくさん連絡があったが、組織からは連絡はなかった。英国の女性サポート団体からは連絡があり、日本の現状を共有した。

(伊藤詩織さんの弁護士からのコメント)起訴便宜主義を変えるような流れについては把握していない。

――「週刊新潮」(5月25日号)では中村格氏の「所詮男女の揉め事。彼女は2軒目にも同行している」というコメントが掲載されている。どういう意図があるのか。

 意図ははっきりと私には分からない。ただ、テレビ番組「あさイチ」(NHK)の報道では「2人きりで食事に行ったら(性行為に)同意している」と考えている人が27%、「車に乗ったら同意している」が25%という。そういった背景が彼の言葉にあると思っている。

――日本の女性とこの問題について話した時に、シンパシー(共感)がないと感じた。女性の中でエンパワーメントがないのが問題だと思っているか?

 脅迫やバッシング、ネガティブなコメントは、女性からも受けた。学んだことの1つとして、日本社会に生きる女性は忍耐を持っている。スウェーデンの職場におけるジェンダーの問題を取材したとき、警察でも女性が30%を占めている。日本社会は女性の地位、影響力、権力が他の国と違う。違う意見を持った女性と話をして、どんな意見を持っているのかを知る機会があればと思っている。

――この問題は国会でも議論されるべきだと考えているか。

 ブラックボックスはたくさんあると考えている。検察にもブラックボックスはあり、逮捕取りやめについての答えを中村氏からいただいていない。国会でも議論していただければ。

――事件の時点で山口氏が内示を受けており、既にTBSのワシントン支局長ではなかったという調査がある。その件についてTBSにアプローチはしているか。

 その調査については存じ上げていないので、TBSに伺いたい。TBSに対してコンプライアンスに問いたい部分があっても、昨年8月に不起訴が出た際にTBSを辞めていたため、伺うことができない。そうした取材をしていただいたことに興味があるし、自分でも調べたい。

――この事件に対して女性もだが、メディアやジャーナリストからのシンパシーがないように感じる。日本外国特派員協会が5月に会見を行わなかった理由は?

 日本外国特派員協会からは、5月時点では「個人的な話であるし、とても難しい話」と断られた。しかし、今までにここでレイプ被害、ストーカー被害についての会見をした方はいらっしゃる。どんな事件でも個人的なものであり、センシティブなものである。理由については私も聞きたい。

(会長からのコメント)会見を開くかどうかは委員会で議論がされ、民主的な決議がされる。5月時点では、「会見を開かない」と決めた方が多く、会見は開かないことに決まった。数週間前に「もう一度この件について会見をしたほうがいい」という意見が出て、会見を開いた方がいいという結論になった。他の性犯罪被害者も会見を開いたことがあるが、加害者は米軍に所属しており、裁判で有罪判決が出ていた。今回は訴えている最中であり、司法がどういう判断をするかは決まっていないため、それらの事件とは違った状態にある。議論では私も反対の立場を取った1人。詳細が明らかにされていない状況で会見をするよりも、裁判で判決が出てから会見をされるべきだと考えている。

――(元TBSワシントン支局長からの質問)山口氏は元同僚であり元部下。就職話に絡んでああいうことをやるという状況が理解できないし、想像できない。申し訳なく思っている。この本を読んでいて特異な動きと感じるのが、警察がしきりに示談を勧め、弁護士をあっせんするという記述。捜査機関としては逸脱しているように感じるが、詩織さん側から「弁護士を紹介してくれ」と働きかけをしたのだろうか。

 これは警視庁第一課の方から言われたこと。高輪署から第一課に移ったときに、山口氏側の弁護士が第一家に訪れて示談をもちかけた。第一課の方が「弁護士を国費でまかなえるシステムがある」と教えてくれた。当時、逮捕状の所在を知るために弁護士が必要と考えていたので、紹介をお願いした。しかし、そこで相談に乗ってくれた弁護士は示談の話をするばかりだったので、その方には頼まなかった。

――レイプ被害のようなつらい経験を世の中に明かす強さはどこから生まれているのか。

 私は自分のことを強いとは思っていない。「この業界で働けなくなる」と考えて、警察に行くこともすごく悩んだ。しかし、これが真実であり、その真実に蓋をしてしまったら、真実を伝えるジャーナリストとして働けないと思った。個人的な話として考えていたら、思い出さないほうがいいと思っていたかもしれない。

 こういう被害を受ける方は必ず自分を責める。私もそうだった。いくら質問されようと傷が癒えることはない。ただ、自分が経験したことには偽りはないので、警察に行こうか悩んでいる方々を、周りの方が理解することがとても大切だと思う。

 もう少しだけ話すと、「これが自分の妹や友人に起きた場合、彼らがどのような道をたどるのだろう」「話さなかったことで同じことが繰り返されるのが苦しい」と思った。私のケースは特別なケースではない。大切な人のことに置き換えて考えるのは簡単にできること。

――今回の問題を、週刊誌1誌(「週刊新潮」)しか取り上げなかった。日本のジャーナリズムは権力や権威に近い人が評価され、苦悩や葛藤を掬う力が弱いのではないか。

 2年間、いろんなメディアに対して感じたこと。私がジャーナリストの仕事だと思うのは、「聞き取れない声を聞きとって代弁する」こと。それがなかったのは残念。「週刊新潮」も、(詩織さん側のアプローチではなく)何かのきっかけで取り上げた。16年の「言論の自由ランキング」を見ても日本は70位以下なので、そこを考えても答えはクリアだと思う。

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