オンデマンド配車が可能なら、運転技術やモラル、あるいは車両の整備、清掃状況がよく分からないUberのメリットは消し飛ぶ。プロが管理整備した専用車両が、プロドライバーによって運行される。
トヨタは東京オリンピックまでにこのJPN TAXIを1万台走らせたいと言う。そのとき道路情報の制空権はトヨタの手中に収まるのである。タクシー業界との事務レベルでの調整が終わり、TrasLogが全てのタクシーに搭載されるようになれば、道路情報の制空権はトヨタの手中に収まるのである。
グーグルやUberのようなIT企業が持っているのは、しょせんビジネスのアイデアとしての突破力でしかない。いざそれをビジネスとして実現しようとすると、ラストワンマイルを握っている者がどんでん返しできる可能性がある。斬新な着目点でオセロをひっくり返しても、四隅を押さえた者には勝てない道理だ。もちろんラストワンマイルの持ち主がボンクラなら話にならないが、相手が悪い。よりによってトヨタである。
トヨタグループには日野もいる。もしこれをトラックに実装したら、日本中の高速道路のリアルタイム情報制圧戦争も一気に制覇できる。そしてタクシーもトラックも古くなったらアジアに輸出されるのだ。もはや絶句するしかない。そのとき何が起きるかは言うまでもないだろう。
絶句ついでに書き足せば、トヨタはUberに出資しており、戦略提携の検討も行っている。関ヶ原の合戦に例えれば、東軍と西軍両側からエントリーしているわけである。もちろんどちらの陣営に対しても手を抜かない。それがトヨタだ。どのみちどちらが勝ったとしてもトヨタは負けることはない。
最後に、われわれにどんな影響があるかも書いておこう。このビッグデータはこれからどんどん装備される通常のトヨタ車のコネクティッドサービスに当然使われる。従来ならこうした新たなサービスにはアーリーアダプターが人柱にされるものだが、既にJPN TAXIによって道路情報は準備されている。JPN TAXIに先立って、トヨタは17年4月から一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会と共同で、従来型タクシー500台にTrnsLogを搭載して道路情報を収集している。情報を取られるばかりで有用な情報が提供されないということは起きないのだ。こうして道路のリアルタイムデータを流用できる範囲はどんどん増えていく。自動運転のためのビッグデータとしてだって当然使える。
「トヨタ帝国の逆襲」が始まった。これがすべてうまくいった暁には、アジアの道路情報はトヨタのものになる。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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