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» 2017年11月04日 10時00分 公開

本好きの祭典の光と闇:「神保町ブックフェスティバル」で出版社が苦悩する「せどり問題」

「神田古本まつり」「神保町ブックフェスティバル」は、本好きが集まる“本好きの祭り”。しかしそんな祭典で、出版社を悩ませている問題がある。それは転売目的で本を購入する「せどり」。現場で何が起こっているのか?

[青柳美帆子,ITmedia]

 本の街として知られる東京・神保町で10月27日〜11月5日にかけて開催されている「神田古本まつり」。今年で58回目を迎える本好きのお祭りだ。中でも盛り上がるのは、3〜5日に行われる「神保町ブックフェスティバル」。古書店のみならず、大手から中小までさまざまな出版社が割安で本を販売する。本好きは“掘り出し物”や“お宝”を求めて神保町に集う。

 しかし、光が集まるところには闇も生まれる。毎年版元が頭を抱えているのが「せどり」の存在だ。

11月3〜5日の「神保町ブックフェスティバル」で、出版社が頭を抱えている問題がある

 せどり(背取り)とは、希少本を古本屋で転売目的で購入する人々のことだ。せどり自体は以前から存在していたが、近年、目に余るようになっているのだという。ブックフェスティバルに参加する、人文系中堅出版社のAさんは「まるでカブトムシのようです」と語る。

 「毎年、ブックフェスティバルの初日になると、せどり屋が出てきます。岩波書店や三省堂のような堅い出版社や、うちみたいな小さいけど専門書を出してる人文系の版元にとっては、悩みの種になっているのではないでしょうか。会議でも話題になって、上司は『せどり死ね……』とつぶやいていました」(Aさん)

 かつてのせどりというと、豊富な本の知識から割安な希少本を見抜く――という専門的、職人的な目利きのイメージもあった。だが現代のせどりには知識はいらず、彼らの武器は「IT」。何も知らなくても、片手にスマートフォン1つがあれば十分なのだ。

 検索すれば、せどり専用のスマートフォンアプリがいくつも出てくる。このアプリをスマホにインストールして、本の裏表紙に印刷された、書籍コードを表すバーコードをカメラで読み取るだけ。するとヤフオク!やAmazonマーケットプレイスなどでの中古価格相場を自動的に調べ、粗利の計算までしてくれる──という“便利”なアプリだ。

 こうした気軽さもあり、せどりがサラリーマンの副業などとしても広まっている。集団でせどりを行うグループもあり、古本を売っているその場で電話をして、購入するかどうかの相談を始めることもあるのだという。

 「そう広くはないブックフェスティバルの売り場にせどりが現われると、1冊ずつバーコードをアプリで読み取りながらプレミア品を探すので、占領されてしまって邪魔。ただ、犯罪というわけではないので注意しにくいですし、せどりも購入者ではあるので売り上げは出る。でもやっぱり『読みたい人に買ってほしい』という思いがあるので、心境的に複雑なんです」(Aさん)

 アプリで読み込ませないためにバーコードにシールを貼るという“対抗手段”もあるが、本の数が多い版元にとってはあまり現実的ではない。また、バーコードを読み込まなくても本の情報が分かるようなアプリも開発されており、「技術のいたちごっこ」の状態だ。

 「せどりについては、困っているという気持ち以上に、無念という思いがあります。ブックフェスティバルで定価よりも安価で売る本は、重版予定がない本や、いわば在庫処分の本であったりすることもあるので、売れること自体は短期的には利益になる。せどりに買われる本は、定価よりも中古市場で高く取引されている本なわけですから、本来なら版元が刷りなおして手に入れやすい価格で売ればいい。でも、会社の体力や読者ニーズの問題でできない。せどりがのさばるのは、自分たち版元のせいでもあるんですよね……」(Aさん)

本好きで混み合う神保町のすずらん通り

せどりに詳しい人に話を聞いてみた

 せどりに詳しいライターのBさんにも話を聞いてみた。せどりの“鉄板本”を「女子大の『赤本』(入試問題集)です。女子高生が使っていたから高値で売れるんです。ちょっと気持ち悪いですね」と教えてくれるBさん。

 いつからせどりが増えたのか。

 「スマートフォン向けのせどりアプリが増えてからですね。09年ごろから増え始め、11年ごろには完全に定着しました。テック系の雑誌やYouTuberによってせどりノウハウが広まって、現在の状態になっています。うまい人は月に60万円くらいの稼ぎになっている。最近では、脱サラビジネスの情報商材などから始める人もいるようですが、ほとんどはどこかから切り貼りした中身のないもの。直接の現場で動いて、なおかつ稼いでいる人たちの情報はまだまだ世に出回ってないと感じます」(Bさん)

 09〜12年ごろのせどりの“主戦場”は、ブックオフなどの大型古書店だった。ブックオフの棚の本のバーコードを片っ端から読み込んでいくような人を、読者の皆さんも見たことがあるのではないだろうか。しかしブックオフは13年ごろから「せどり禁止」を掲げ、対策を講じた結果、ブックオフで活動する人は目に見えて減ったという。

 ブックオフが行ったのは、巡回や呼びかけに加えて、先ほどもAさんが語っていた「バーコード対策」。バーコードの上に自社管理コードを貼り、スマホアプリやバーコードリーダーの利用ができないようにした。Bさんは「やはりそうしたツールが使えないと不便なので、有効なせどり対策になる」と語る。

 「中には、スマートウォッチとキーホルダー型の読み取り機を連携するなど、スマホを使わずにせどりをする人も現れました。ただし、最近ブックオフではうまみがなくなったという話を聞きますね。ブックオフとヤフオク!が連携を始めた影響で、ブックオフがヤフオク!の相場を当てにして値付けをするようになったために、以前のような『超希少本なのに100円』というような値付けは見なくなりました」(Bさん)

 同様のケースは、ヤフオク!以外にも起こっている。Webを使えばどの店でも中古市場を参考にできるようになったために、中古市場の価格がそろってきている傾向があるという。そのため、「以前ほど大きな額をせどりできなくなっているのが現状」のようだ。

 せどりを減らすためには、「バーコードを隠す」といったテクニック的な対処はもちろんのこと、古本市やブックオフのような場所と、Web上の中古市場の価格差がなくなる「根本的な解決」が必要なのかもしれない。心苦しいが、出版社の無念の日々はしばらく続きそうだ。

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