インタビュー
» 2017年12月06日 07時30分 公開

夫婦別姓訴訟が話題に:サイボウズ青野社長に聞く 「夫婦同姓のコスト」と「議論のコツ」 (1/2)

「選択的夫婦別姓」の導入を求める訴訟で話題のサイボウズ青野慶久社長。なぜ訴訟に至ったのか? どのような反響があったのか? 青野社長に直撃した。

[青柳美帆子,ITmedia]

 サイボウズの青野慶久社長が“時の人”となっている。11月、選択的夫婦別姓の導入を求め、来春にも東京地裁に提訴する方針を発表。賛否両論が巻き起こった。特にインターネット上で反響が大きく、SNSやニュースサイトで活発な議論が交わされている。

 夫婦別姓訴訟は2015年、同姓とする現行制度について最高裁が「合憲」と判断し棄却した。なぜ青野社長は夫婦別姓の訴訟に至ったのか。夫婦別姓訴訟の方針を発表することで、どのような反響があったのか。訴訟に込めた思いとは? 青野社長に聞いた。

サイボウズ青野社長に聞く「選択的夫婦別姓」

「絶対に夫婦は同姓でなくてはならない」のムダ

――夫婦別姓訴訟に至るまでの経緯を教えてください。青野さん自身も、戸籍の名前は「西端慶久」。結婚時に妻の姓に変更しています。

 16年前の2001年、結婚するときに妻が「名字を変えたくない」と言ったんです。自分が妻の名字になることは想像もしていなかったのですが、そこで「自分が名字を変えるという選択肢もあるのだな」と気付きました。

 名前を変えた経験がある男性は少数派。「名字を変えてみたらなにか面白いことがあるかもしれない。名前を使い分けてみるのも楽しいかもしれない」とその当時は思ったんですね。ライバル会社の展示会にこっそり視察に行くこともできるかなと思った(笑)。戸籍は妻の姓の「西端」に変え、仕事では旧姓の「青野」で活動することにしました。

――どんなことが起こりましたか?

 まず、所有している株式の名義変更にお金がかかりました。信託銀行から何百万もの請求が来て、サイボウズの経理から渋い顔をされました。さらに、面白いかもしれないと思った「使い分ける」のも想像以上に大変。社内外の人に飛行機やホテルの予約を取ってもらうと、「青野」だったり「西端」だったりする。国内ならまだしも、海外はパスポートに記載された名前と予約名が違えば、宿泊が断られてしまうケースだってある。飛行機にも乗れなくなるかもしれません。だから予約を頼むときに、「ちょっと待った! ちゃんと西端で予約してくれてる?」と確認する。そんな風に怖がりながら日々事業活動をするのはムダでしかありません。

――面白いと思った名字変更は、全然面白くなかったということでしょうか。

 面白さより大変さのほうがはるかに大きかったですね。結局、なんのメリットもありませんでした。名前が1つなら、こんな大変な思いやムダな手続きをする必要はなかった。

 また経営者の立場からも、現行の姓制度には無駄なコストがたくさん掛かっていると感じます。今は旧姓で働き続ける人も多く、サイボウズの社内にもたくさんいます。名刺の名前や社内での呼び方は旧姓ですが、給与明細や社会保険手続きには戸籍に記載された名字を使用しなくてはならないため、労務担当者は戸籍上の氏名と通称を二重管理をすることになる。この使い分けは本人からしても企業からしても結構な手間です。選択的夫婦別姓を実現してくれれば、このコストは必要なくなると感じていました。

――そうしたご自身や社長としての経験から、夫婦同姓についての疑念があったわけですね。訴訟という手段に踏み切ったのはなぜでしょうか。

 2年前に夫婦別姓に関する訴訟が最高裁まで進み、「ようやく進むのかな」という期待が生まれていました。ところが結果として違憲判決は出なかった。「なんでこんな簡単なことが進められないのか?」と非常に落胆しましたね。その間も夫婦別姓の運動をしている人とロビー活動をしたり、野田聖子さん(現総務相)と別姓対談をしたりと活動をしていたのですが、どうも制度を決める側に強硬な反対派がいてなかなか進みそうになかった。

 そんな中で、作花知志弁護士が戸籍法の矛盾を見つけ、原告を探していることを知りました。2年前の夫婦別姓訴訟は「男女不平等」を訴えるものでした。もちろん実際は96%が夫の姓を選択しているので、不平等な状況が存在しているのですが、法律としてはどちらにも選ぶ自由があるので平等という判断になりました。再び男女不平等という切り口で再度訴訟をしても、勝ち筋を見つけるのは簡単ではない。

 作花弁護士のロジックは、「日本人と外国人との結婚では現行法でも姓が選べるのに、日本人同士は選べない。それは不平等ではないか」というもの。ロジックとして通っており、また2年前とは違う観点での訴訟。「今回はイケる」と期待を抱き、原告となることを決めました。私たちのゴールは民法や戸籍法を大きく変えることではなく、「婚姻により氏を変えた者は,戸籍法上の届出により,旧姓を戸籍法上の氏として用いることができる」の条文を追加する“パッチ”を当てること。社会にとってもコストは低く、多くの人のニーズを満たす選択肢が生まれると考えています。

――訴訟は大きな反響を呼びました。これだけの反響を予想していましたか?

 私が出ることで訴訟が注目され、世論を形成するための一助になれば、自分が立ち上がる意味があるだろう――とは思っていました。ただ、ここまで反響が大きいとは正直予想してはいませんでした。

――大きな反響があった理由はなんでしょうか。

 2年前に違憲判決が出なかったことで、がっかりした方がとてもたくさんいました。「またここから10年間、何も変わらない日々が続くのだろう」と諦めていた人もいた。そこで全く新しい切り口で訴訟をすることで、「今回は変わるんじゃないか」と期待を抱いてもらっているのでは。しかも女性ではなく働く男性が訴訟を起こすということも注目された一因だと思います。でも「Yahoo!ニュース」のトップページにまで掲載されるとは本当に思いもよりませんでした(笑)。

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