コラム
» 2017年12月07日 06時00分 公開

欧州では議論進む:地域医療の「脱中央集権化」 (1/7)

広域自治体に医療政策の権限を移譲したスウェーデンなど、欧州では「脱中央集権化」が進む。もちろん海外の事例をダイレクトに輸入してもうまくいくとは思えないが、地域医療構想の推進に役立つ側面はある。

[三原岳,ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

 2017年3月までに各都道府県が策定した「地域医療構想」を読み解く第1回では、「病床削減による医療費適正化」「切れ目のない提供体制構築」という2つの目的が混在している点を指摘するとともに、国は前者を重視しがちであるのに対し、都道府県は後者を優先している点を指摘した。

 第2回以降は「脱中央集権化」(decentralization)、「医療軍備拡張競争」(Medical Arms Race)、「プライマリ・ケア」という3つのキーワードを使いつつ、各都道府県が地域医療構想の推進に向けて、必要な考え方や対応策を検討したい。

 今回は、前半で民間中心の医療提供体制などを考察しつつ、地域医療構想の推進には合意形成が重要である点を論じるほか、人口動向や病床数の地域差を見ることで、地域の課題を地域で解決する発想が求められる点を指摘する。

 その上で、後半では欧州諸国を中心に論じられている「脱中央集権化」(decentralization)という言葉を1つの手掛かりとして、地域の特性に応じた提供体制の構築に向けた各都道府県の対応として、(1)ケアの統合、(2)ヘルスケア領域を超えた部門間の連携、(3)住民を含めた幅広い関係者の参加――が重要になる点を強調する。

民間中心の提供体制

 地域医療構想に基づいて議論しなければならないテーマは広範囲である。具体的には、急性期病床や慢性期病床の削減、回復期病床の充実、在宅医療等(※1)の整備、医療・介護連携などであり、関係者も多い。地域医療構想では、都道府県を中心とした関係者の合意形成を通じて、地域特性に応じた提供体制の構築が期待されている。

 では、なぜ合意形成に力点が置かれなければならないのだろうか。第1に、日本の医療提供体制の特徴が挙げられる。日本の医療制度では国、自治体、保険者が保険料と税金で費用の約8割を調達しているが、サービス提供は民間中心であり、これは世界的に珍しいとされている。

 表1で示した開設者別の病院数を見ると、医療法人が全体の68.16%と最も多く、2.84%を占める個人と合わせると7割近い病院が民間によって運営されている。この状況で都道府県が単に構想を策定したり、将来像を予想したりするだけでは何の実効性を持たない。

表1 開設者別で見た病院の数 表1 開設者別で見た病院の数

 このため、前回述べた通り、地域医療構想の推進に際して知事の権限が強化されたとはいえ、民間病院に対しては勧告や要請にとどまる。さらに、都道府県が病床過剰地域で病床の新設に上限を設定している現在の規制についても、医療計画の根拠法である医療法に基づく直接的な規制ではなく、健康保険法に基づいて保険医療機関の対象として認めないという間接的な方法を採用している(※2)。

 こうした状況で医療提供体制に対し、都道府県が果たせる影響力は小さく、地域医療構想の推進には民間医療機関との連携・協力が欠かせない。

 第2に、在宅医療を含めた在宅ケアの充実には医療関係者だけで完結しない点である。

 図1は地域包括支援センターの業務に関係する関係者を列挙しているが、これだけでも相当な関係者が絡んでいる。分かりやすい事例は認知症ケアかもしれない。認知症ケアの場合、専門的な医療による初期診断や悪化防止だけでなく、患者の生活実態に沿って生活の質(QOL)を維持・向上させることが必要であり、介護職やリハビリ職などの支援も重要である。日常生活では住民同士の気付きや支え合いも求められる(※3)。このため、地域医療構想の推進には医療関係者だけでなく、住民を含めた幅広い関係者との連携・協力が必要となる。特に、地域医療構想の推進に際しては、連携・協力の場として関係者で構成される「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)が設置されており、ここでの合意形成プロセスが重要となる。

図1 地域包括支援センターで連携が求められる関係者 図1 地域包括支援センターで連携が求められる関係者

※1 「在宅医療等」には介護施設や高齢者住宅での医療も含まれているが、本レポートでは在宅医療と表記している。

※2 財務省は財政制度等審議会(財務相の諮問機関)を通じて、民間病院に対しても同様の権限が必要と主張しており、17年10月25日の会合では「都道府県知事の権限を実効的にしていくべき」とする資料を提出した。

※3 なお、政府は日常生活圏域で医療・介護・生活支援などを一体的に提供する「地域包括ケア」を推進しており、「あるべき姿としての切れ目のない提供体制」と共通点が多いが、この言葉は在宅医療や医療・介護連携、介護保険制度改革、保険外サービスなど多様な文脈で使われており、その意味は曖昧である。本レポートでは用語の混乱を避けるため、原則として「地域包括ケア」という単語を使わない。

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