「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”枡なのに新しい(1/4 ページ)

» 2018年01月12日 07時15分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 「枡」だけで売り上げを4倍にした会社がある。

 岐阜県大垣市にある枡の専門メーカー、大橋量器だ。枡は、古くは計量器として、コメや酒などを計るための必需品だった。しかし、日常生活で使われなくなってから久しい。今ではお祝いの席で祝杯を挙げるときに使うイメージを持つ人が多いだろう。

 大橋量器は枡製造の技術を活用して開発したユニークな商品で知られる。五角形や八角形の枡や、色や柄を付けた「カラー枡」、傾けると光る「光枡(ひかります)」などが代表的だ。しかし、それらを生み出し、売り上げが増えるまでには、もがきながら地道に続けた、20年以上にわたる取り組みがあった。社長の大橋博行さんの挑戦を追った。

photo 大橋量器が製造している枡

伸び悩む売り上げ

 大垣市は枡の全国シェア8割といわれる。メーカーが集積しており、年間出荷量は200万個に上る。とはいっても、現在メーカーは5社しかない。全盛期の半分ほどに減ってしまった。1950年創業の大橋量器はその中の1社だ。

 大橋さんが入社したのは29歳のとき。バブル時代に外資系IT企業に入り、最先端のコンピュータを扱う営業マン生活を満喫していたが、結婚を機に家業を継ぐ道を選ぶ。伸び盛りの華やかな業界に身を置いていた反動もあり、入社後は「あまりにもローテク」な世界に気分が沈んだ。最初の年はやる気もなく「楽しくなかった」という。

 しかし、その年の売上高を見て意識が変わった。5600万円。記憶していた昔の売り上げの半分しかない。「子どもも生まれる。何とかしなければ」

 まず取り組んだのは、販路開拓と品質向上だ。売り先の大部分は酒造メーカーだったが、仲介する問屋との関係が悪く、売り上げを落としていた。そこで当時は全国に1500以上あった酒造メーカーに、販促品として直接売り込みを始めた。それと同時に、組目が甘く、液体が漏れてしまう商品をなくすために、製造する全ての商品に目を通して品質をチェックした。

 その取り組みを続けていくと、売り上げは持ち直してきた。4年後には8000万円を超えた。このまま上り調子でいくかと思ったが、翌年は7000万円台後半、その翌年は7000万円台前半と、落ちてきてしまう。消費者が選ぶお酒の種類は多様になり、酒造メーカーも日本酒用の販促品を大量購入するほどの余裕がなくなってきた。

 「第2の危機でした」と振り返る大橋さん。ここから、従来の形にとらわれない商品開発に向けて、試行錯誤が始まる。

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