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» 2018年01月30日 08時00分 公開

地域プロジェクト「Adobe Design Jimoto」:「気仙沼の課題をデザインで解決する」中学生41人の挑戦

アドビシステムズの地方活性化の取り組み「Adobe Design Jimoto」が宮城県気仙沼市で開催。中学校2年生が「デザイン体験」に挑戦した。取り組みの意味とは?

[青柳美帆子,ITmedia]

 中学生は“地元”をどのようにデザインするのか――アドビシステムズによる取り組み「Adobe Design Jimoto」が1月23日、宮城県気仙沼市の唐桑中学校で開催された。アドビが提供するさまざまなツールを使い、「気仙沼の街の紙袋をデザインする」をお題に、唐桑中学校2年生41人と宮城県内のデザイナーが一丸となってデザインに挑戦する取り組みだ。

 制限時間は、話し合いから仕上げまで全てひっくるめて1時間30分。事前に考えてきた「自分が伝えたい気仙沼の魅力」のアイデアをもとに、活発に意見を交わす。iPadとiPadとデザイン用アプリ「Capture CC」や「Illustrator Draw」を使い、イラストもどんどん取り込んでいく。中学生と大人で構成された8チームが、それぞれ頭を悩ませながら手を動かし始めた。

気仙沼の中学生と宮城県のデザイナーが協力してデザインを作り上げる
「気仙沼の魅力を伝える」アイデアを話し合う

地域の課題を解決する「Adobe Design Jimoto」

 Adobe Design Jimotoは、これまで福岡県、東京都、奈良県、千葉県で計5回行った。「地域の課題をデザインによって解決する」が共通のテーマで、プロのデザイナーが個々人で制作する回もあれば、中高生とともに活動する回もある。福岡県では「市外の人がバス停の場所を分からない」、奈良県では「ならまちの飲食店で外国人観光客が困っている」といった課題の解決を目指してきた。

 気仙沼市は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた。タクシーに乗って市街地を移動していると、新築の建物や、真新しいコンビニ、建設中の看板が目立つエリアがある。タクシーの運転手は「この辺、全部流されたんですよ」と教えてくれた。復興の道をたどる中で、地域の価値を見直す動きが生まれたのだという。

 気仙沼の課題として挙がったのが、「街のショッピングセンターなどで使われる紙袋に共通のデザインがない」こと。気仙沼の価値が市外や県外の人にも伝わるようなデザインはどんなものなのか――Adobe Design Jimotoスタート以来、初めて公立学校とタッグを組んだ。学校だけではなく市とも連携。出来上がったデザインを実際に採用できるかどうかの検討も進める。

アドビシステムズの武井史織さん

 Adobe Design Jimotoはどのような地域で開催するのか。アドビシステムズの武井史織さんは「単発の『点』で終わるのではなく、イベントをきっかけにしてその地域のクリエイターコミュニティーが熱くなる『線』になってほしいという思いがあります。開催する上では、その街に熱意を持ったキーパーソンやコミュニティーの存在が必要不可欠です」と話す。

 気仙沼での開催は、地域で活動している団体「ペンシー」の代表、鈴木歩さんが深く関わっている。鈴木さんは気仙沼で10代向けのデザイン授業プロジェクト「ネクストスイッチ」を展開している。

 教育機関の協力も欠かせない。唐桑中は一般企業との取り組みの前例があり、17年10月には博報堂アイ・スタジオと被災校の復興支援に役立てる「チャリティー年賀状」のデザイン教室を開催している。武井さんも「学校内に理解がある先生がいて、協力してくれることが非常に大きい」と話す。

唐桑中学校は一般企業と手を組んだ授業の前例がある

クリエイティブ経験が「地域格差」解消に

 たっぷり1時間30分の作業を終え、8チームの紙袋デザインが出そろった。プレゼンで魅力を伝え、最後に全員で投票する。海と波、サンマやサメ(フカヒレ)などの魚、人の優しさ、津波に耐えた「折れ石」などのモチーフが、それぞれのやり方でデザインされている。プレゼン中に「私は将来イラストレーターになりたいと思っています。だから自分のイラストが紙袋になったことがとてもうれしい」と話す生徒もいた。

 投票の結果1位になったのは、チーム「佐々木教」。チーム名の由来は担任の佐々木先生だという。生徒たちは「頑張ったかいがあった。1位になれるとは思っていなかった」とはにかむ。「絵があんまり得意じゃないので、最初は難しく感じていた」「テーマを話し合ううちにどんどんイメージが湧いていって、面白かった」と口々に感想を語り合う。

最多投票のデザイン。3Dデザインツール「Dimension CC」を使って仕上げる

 武井さんは「『イラストレーターになりたい』と言っていた生徒がいたのがうれしかったですね。私が中学生の時は、クリエイティブという仕事があることも知りませんでした。『将来はこうなりたい』と考えられる生徒がいるというのは、未来が明るい」と振り返る。

 「クリエイティブには、地域間での教育格差をなくす力もあると思っています」と武井さんは言う。宮城県の高校生の進学率(17年度/大学、短大、専門学校を含む)は男子48.1%、女子50.5%。大都市圏を中心に進学率が伸びていて、全国的に見ると過去最高を更新しているが、宮城県は全国平均よりもやや下回り、伸び率も鈍化している。

 学力が高く意欲があっても進学を選ばない大きな要因は、学費や下宿代などの負担――経済状況と言われている。さらに「進学した先の未来」を示すロールモデルの少なさから、進学するという発想をなかなか持てない生徒もいる。

 武井さんは「地元の課題をデザインで解決する経験を通じて、生き方の選択肢を持ってもらいたいですね」と期待を寄せる。アドビは地域と協力し、「未来のクリエイター」の種をまいている。

取材協力:アドビシステムズ

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