会社の数字〜注目企業を徹底分析〜

和歌山発のバイクが1億円の“共感”を集めた理由キーワードは「地元」(1/3 ページ)

» 2018年02月26日 11時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

特集「テクノロジーが変える「資金調達」のカタチ」:

 財務部門の大きな役割の1つが資金調達だ。これまでは、金融機関からの融資(デットファイナンス)や、株式によるマーケットからの調達(エクイティファイナンス)が当たり前だったが、近年はクラウドファンディングや仮想通貨を使用した資金調達など、新たな手段が注目されている。

 こうした既存の手法に頼らない資金調達を成功させるためには、何が必要なのか。成功企業やサービス提供者に話を聞く。


 プロジェクトを応援してくれる人たちに、商品購入や出資をしてもらう。クラウドファンディングの手法が、ここ数年で一気に広がっている。しかし、プロジェクトの全てが成功するわけではない。支援者が集まらず、失敗に終わるプロジェクトも多い。

 たくさんの人の支持を集め、プロジェクトを成功させるには何が必要なのだろうか。成功プロジェクトの中でも特に注目を浴びたものの1つが、和歌山県のベンチャー企業、glafit(グラフィット)が2017年に実施した、自転車と電動バイクの機能を合わせた「glafitバイク」の量産に向けたプロジェクトだ。クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」を活用し、国内最高額となる約1億2800万円を集めた。

 なぜ、glafitのプロジェクトを多くの人が支持したのか。鳴海禎造社長に、クラウドファンディング活用の理由や成功のポイントを聞いた。

photo 「glafitバイク」のプロジェクトは約1億2800万円を集めた(出典:Makuake

新しいチャレンジを発信したい

 glafitバイクとはどのような乗り物なのか。同社は「ハイブリッドバイク」と定義している。ペダルをこげば自転車として走り、ハンドルのスロットルを回せば電動バイクとして走る。その両方を合わせたハイブリッド走行もできる。15年以上にわたって自動車、バイク関連用品の企画や製造に取り組んできた開発チームが、技術を結集して作り上げた乗り物だ。

 満を持して完成させたglafitバイクをどのように打ち出すか。その方法として選んだのがクラウドファンディングだった。鳴海社長はその理由について「テストマーケティングとして使いたかったから」と説明する。

 Makuakeをはじめとする「購入型」のクラウドファンディングサービスは、プロジェクトに投資して金銭的リターンを得るというものではない。利用者が気に入った商品やサービスを先行的に手に入れられる、という要素が強い。glafitの場合は、新開発製品の特長を発信して消費者の反応を見極めることが主な目的だった。

 それなら普通のインターネット通販で先行販売してもいいのでは? という疑問もある。しかし、これまでネット通販を利用してバイク関連用品などを販売してきたglafitは、従来とは違う販売方法を求めていた。

 「ネット通販では、ユーザーがすでに認知して求めている商品や価格が安い商品が人気です。購入型クラウドファンディングはそうではなく、新しいチャレンジを知って購入を判断してもらうプラットフォーム」と鳴海社長は指摘する。「ネット通販には『価格が安い順』に商品を並べる機能がありますが、クラウドファンディングにはありません。ユーザーは価格の安さではなく、自分が関心を持つ領域において、新しいチャレンジに早い段階で関わることを重視する。意識が全く違うのです」

 技術の集大成として開発に挑んだglafitバイク。そのチャレンジを発信するという目的が、クラウドファンディングの特性にぴったり合っていた。1台を購入できる12万円前後のコースのほか、グッズや付属品を購入する3000〜約3万円のコース、5台セットの52万5000円のコースなどを用意した。

 多くの人の心に届けるため、プロジェクト紹介のページでは、近年のトレンドと重なる「自転車」「電動化」という要素を丁寧に説明した。自転車に関心が高い人に向けては、「平日の通勤・通学の手段として」「休日のお出かけ先で」といった使い方を写真とともに紹介したほか、「折りたためる」というメリットもPR。また、「100%電動エネルギー」のメリットとして静音性や環境性能を紹介し、燃費性能も優れていることを記載した。

 トレンドに合った見せ方をした一方、最も発信力を発揮したポイントは他にある。それが、「和歌山発」だ。

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