中国人観光客を締め出しても、「日本の花見文化」が守れない理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2018年03月27日 07時55分 公開
[窪田順生ITmedia]
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日本人の花見も「乱痴気」だった

 いや、日本人と中国人では「民度」が……とか言い出す人もいるが、「日本人は行儀が良くて、奥ゆかしい」みたいなセルフイメージはせいぜいこの20年くらいでつくられたものにすぎない。むしろ、ハメを外す時は周囲がドン引きするくらい暴走をする、というのが日本人の伝統なのだ。

 その象徴が実は「花見」だ。1899年(明治32年)から1914年(大正3年)まで中国・長江に滞在していた帝国海軍・桂頼三の『長江十年:支那物語』のなかで、中国で「飲む、食ふ、歌ふ、三昧や太鼓の楽隊入りの大騒ぎ、果ては踊る、舞ふ、跳る」という「日本式花見」をおこなう日本人たちの「乱痴気」や「狂ひ廻はる有様」を、支那人や西洋人が珍しそうに眺めていたと記述してこのように述べている。

 「世界人種の展覧會場たる上海の地に於て、斯く迄に無遠慮なる誤發展には、流石に吾人も少々赤面の至りである。蔭ではあたりまえとすることでも、人の見る前でははづかしいこともあるからなあ」(P147)

 いまの日本人は「花見」を「世界に誇る」みたいにやたらと美化したがるが、この当時は、異文化の人たちから見ると明らかに「異常な乱痴気騒ぎ」だったのだ。

 100年たってもこういう日本人の本質は何も変わっていない。平成日本の花見も、冷静に観察すると、マナーだ、文化だ、とご託を並べるのが恥ずかしくなるような場面もちょいちょい見掛ける。

 酒を浴びるように飲み、周囲の迷惑など気にせず大声をあげ、子どもたちの前で口げんかをする大人もいる。ごみのポイ捨てもあるし、ひどい人になると、桜の木の下でゲーゲーやっている人もいる。負の側面を全て「中国人観光客」に押し付けているが、日本人もなかなかのものだ。

 福岡の天神で、花見の一等地が有料になったという。文化が壊されると怒っている人もいるが、長い目で見れば、「乱痴気騒ぎ」を文化へと成熟させていくためのイノベーションの1つともいえなくないか。

 いずれにせよ、「中国人観光客」という「新・消費者」を憎々しげにディスったところで、日本の花見文化は守られるどころか、むしろ衰退へより近づいてしまうのは明らかだ。

 「サクラノミクス」を失速させないためには、われわれ日本人の超閉鎖的な宴会カルチャーを「外に開く」しかないのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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