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» 2018年06月11日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:豊田章男自工会新会長吠える! (3/3)

[池田直渡,ITmedia]
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市場シュリンクの先に待つ絶望

 こうした現場を無視した税制に対する国民の回答が軽自動車へのシフトだった。それを「税金逃れ」のアンフェアな行為であるかのように騒ぎ、軽自動車増税を後押ししようとする動きはおかしい。マーケットの声に謙虚になれないものは淘汰される。最も怖い筋書きはそれが国内の自動車産業の衰退を招くことだ。この問題を自動車産業の利益誘導だなどという陰謀論に振り回されている場合ではない。

 なぜか? 極論を言えば自動車メーカーは何も日本で生産しなくても構わない。日本がマーケットとして維持不可能なほど小さくなれば、海外で生産して日本に輸出するだけだ。感情論を無視すれば、物理的には簡単に解決できる。何も為替リスクを背負って日本から輸出せず、主要消費地や消費国の非関税条約エリアで生産すれば大幅にリスクが減らせるのだ。

 それは「もしも」の話ではない。すでに二輪車は一足先にそういうことになっている。日本を出て行くという決断は断腸の思いだったろうが、経営判断としては選択肢がない。世界では売れているが日本では売れない。だから売れる場所で作り、売れない場所での生産を縮小する。これは企業経営的には当たり前のことだ。

 では、そうした海外移転で置いていかれるのは誰か? それはわが国の全就労人口に対して8.3%、539万人を占める国民だ。基幹産業である自動車産業が払う給与を手放せば日本の購買力が激減する。給与だけではない。国内の全設備投資の21.2%。研究費の24.3%。全製造業の18.2%。これらが半減するようなことになったら、日本経済は飛車角落ちもいいところだ。本格的に没落して再起できなくなる。

 カーシェアリングの隆盛はよくMaaS(Mobility as a Service)の文脈で語られる。シェアの方が効率的だと言われるが、そんなことになっているのは馬鹿げた税制のハンデがクルマの所有には課せられており、「所有」と「利用」がイーブンな勝負になっていないからだ。課税当局の傲岸不遜が直らなければそのうちMaaSにも課税すべきなどと言い出しかねない。そんなことをして日本の競争力を削ぎ、世界と戦えないようにがんじがらめにしていくのが果たして役所のすべきことなのか?

 筆者は思う。クルマの所有にイニシャルのコストがかかるのは仕方ない。ただ、ランニンングコストまでが「利用」より高額になるのは異常事態である。世の中の普通のものはサービスだけ利用すると「イニシャルコストを考えればお得」なものであり、所有して利用するランニングコストが、所有しないで「利用」するランニングコストに太刀打ちできないなどと言うことは経済原則上、本来あり得ない。

 都内に住んでいれば駐車場を借りるだけで月額3万円なんてことはザラだ。毎日の移動でタクシーを使っても多分この駐車場代と変わらない。クルマに乗って行けば、行った先で数千円の駐車料金が発生する。経済的に合理的な判断をすればクルマを所有する選択肢は愚かとしか言いようがない。手取り給与17万円の若者たちから見たら、クルマを持つのはわざわざ進んで政府に税を搾取される情報弱者に見えるだろう。そうして日本の四輪車新車販売は1995年の780万台から2016年に490万台へとシュリンクした。17年には523万台と回復を見せたが、基調的に上向くとは考えにくい。

 豊田会長は言う。「日本の新車販売マーケットはここまで小さくなってしまった。国の基幹産業がそれで良いのかと思いますが、こう言う税制を考えるととても難しい状況です。例えば、軽自動車は地方の人々にとっては実質的には公共交通機関です。東京に住んでいる人はなかなか実感しにくいでしょうけれど、本当に必需品なんです。軽自動車税を上げようなんてとんでもないです。むしろ、自動車税の全部を軽に合わせれば国際水準になるんです」。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


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