あなたはカローラの劇的な変貌を信じるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2018年06月04日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 「カローラがものすごく良くなった」という事実をどう言えば伝わるだろうか?

 5月30日。筆者はカローラ・ハッチバックのプロトタイプ試乗会のために富士スピードウェイの東コースに赴いた。

 プリウス、C-HR、カムリに続くTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)世代の第4弾であることを考えれば、期待値は高まる。TNGAを提唱し始めて以降のトヨタは、長足の進歩を遂げており、TNGA世代の新型が出るたびに「良くなった!」という感動がある。その「良くなった!」は基本的には前世代モデルとの比較においてだが、実はTNGAモデル同士をデビュー年次で比較しても新しいほど進歩してきている。

トヨタデザインはこのカローラで新たな段階に突入した(写真は全て北米仕様) トヨタデザインはこのカローラで新たな段階に突入した(写真は全て北米仕様)

プリウス/C-HR/カローラハッチバック

 特にプリウスで先頭を切ってデビューしたCセグメント用のシャシーはプリウス、C-HRに次いで、3車種目に突入している。プリウスとC-HRを比べると、違いは明らかで、熟成が進んだことが感じ取れるものだった。トヨタのエンジニアに聞いても、その差は認めており、プリウスのマイナーチェンジの際には、この間の進歩を再度フィードバックしていくつもりだという。

 従って、このCセグメント3車種目のカローラ・ハッチバックがどういう仕上がりになっているのかが、TNGAの伸びしろを測る1つの目安になるだろう。つまりプリウスからC-HRへの進歩が「初期モデルの未完成な部分を補正したゴール」なのか、それとも「TNGAは進歩を続け、これからもさらに良くなる」のか。

 トヨタは当然「進歩し続ける」と言うだろうが、お題目だけなら誰でも言える。本当にそういうものになっているのかどうかは現実のクルマに乗れば歴然とする。というのが今回の試乗のテーマである。

 一方で、心のどこかでは「そろそろ裏切られるのではないか?」という疑念も抑えられない。自分でもいい加減信じても良いのではないかと思いつつも、気持ちがついていかない。TNGAについては多くの取材を繰り返してきて、TNGAが単なる部品共用などの小手先の手段ではなく、トヨタ全体の強靱(きょうじん)化を目的とした「トヨタの仕事のやり方そのものの全面改革」であることも理解している。とすれば、これから出てくる全てのクルマは過去のトヨタとは違っているはずであり、理屈通りであれば「このモデルはちょっと出来が悪かった」という仕上がりのムラは起こらないはずである。

 それでも不安を感じるのは、それくらい長い間トヨタはクルマ好きの期待を裏切ってきたからだ。コストダウンのためにスポット溶接の数をどれだけ減らすかを競っていたような過去がある以上、仕方がないだろう。その時代に失った信頼を取り戻すのは並大抵のことではない。

 筆者としてはアンビバレントな感覚が渦巻いており「トヨタなんてどこが良いの?」という意見を聞けば、今度は自分の中で「いやいや、それは過去のことで最近のトヨタを分かっていない」と言いたくて仕方がない。自分自身がトヨタの変化を信じ切れない一方で、TNGA改革に無理解な批判にも腹が立つ。

 ここからしばらく、トヨタはどうあろうとひたすらいいクルマを造っていくしかない。信頼とは結果の積み重ねで築くものである。その積み重ねはまだ誰もを黙らせるところに至っていないが、無視もできないところまで来ている。それが多分アンビバレントの正体だと思う。そして少なくとも筆者の内側にアンビバレントを生じさせるだけの実績は示したきたとも言える。

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