あなたはカローラの劇的な変貌を信じるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2018年06月04日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

TNGAはまだ進歩するのか?

 TNGA準拠の製品になるためには、クルマの設計だけでなく、生産設備も生産現場の教育も全て刷新しなくてはならない。それはトヨタの根幹である「トヨタ生産方式」と同じで、チーム全員がフォーメーションプレーを理解し、実際の動きを体にたたき込んで、セットアップしないと成り立たない。例えば、野球のダブルプレーが確実にできるチームになるためには、局面ごとの動きを頭で確実に理解し、それを遅滞なく実行できるフィジカルな訓練を必要とする。

 しかも、特定の野手だけが特訓してもダメなのだ。それぞれのポジションと状況に応じ、9人の選手があたかも1つの生き物の様に整然と機能しなくてはならない。だから生産設備と生産要員の準備が整うまでTNGA世代に入れない。生産拠点の多いクルマほど大変だ。

 例えばカローラをTNGA化するには世界16拠点の工場設備を刷新し、そこで働く人員の頭とフィジカルをアップデートしなくてはならない。しかも拠点ごとの生産台数やレイバーコストによって、機械化と手作業の比率も違う。実現する方法もまた多層的なのだ。簡単な話ではない。

テールのデザインもフロントに呼応したものになっている。またテールゲートの素材は樹脂であり、その造形もまた金属ではできない形に挑んでいる テールのデザインもフロントに呼応したものになっている。またテールゲートの素材は樹脂であり、その造形もまた金属ではできない形に挑んでいる

 となれば、TNGA以前のシャシーをキャリーオーバーして、マイナーチェンジで小手先をごまかす車種も当然発生せざるを得ない。だから今、トヨタのラインアップは基本設計の新旧が混在したまだら模様で、TNGAとそれ以外が混沌として存在している。新世代の合間に旧世代のマイナーチェンジモデルが登場したりするのだが、そんなことはユーザーには分からないから、余計に混乱するのだ。

 さて、もう1つ、「確かにTNGA以降クルマが良くなったのは認める。走れば違うのは分かったが、一体何がどう違うのか?」と聞かれることが多い。トヨタ自身もいろいろと説明している。低重心化だとか、高剛性化だとか、軽量化だとか、重量部品の中央集中化だとか、ドライビングポジションの改善だとか。多分それを聞いても「いや、まあそうなんだろうけど……」といまひとつ腹落ちしないだろう。筆者の勝手な解釈だが、それはコンピュータのオペレーションシステムとアプリケーションの関係に近いと思う。

 例えば、表計算ソフトがあるとする。単位を書式設定できたり、四則演算できたりするのはもちろんのこと、関数も扱うだろう。そういう機能は表計算ならではのものだ。だが、モニターに表や文字を表示したり、キーボードからの入力を変換したり、文字化して表示したり、プリンターに出力したりする機能を必要とするのは何も表計算ソフトだけではない。ワープロソフトだろうがプレゼンソフトだろうが、そういう機能は必須である。だからそんな汎用部分を各アプリケーションの内部で専用開発する必要は全くない。そういう共用部分を引き受けるためにOSがあるのだ。TNGAとはこのOSに相当する。どんなクルマでも当たり前に必要な機能をOSと見なして、レベルアップさせるべく基盤技術を開発する。それとは違う階層で、アプリに相当するのが各車種ごとの開発部分というわけだ。

 OSの専用開発部隊ができれば、リソースの集中化が可能であり、当然汎用部分が大幅に進歩する。OSの機能が拡張されれば、アプリにできることが底上げされるし、そこから得られる体験も性能もインタフェースも変わる。つまり低重心化も、高剛性化も、軽量化も、重量部品の中央集中化も、ドライビングポジションも全部OS側でレベルアップさせている。逆にアプリはそういう部分をOSに任せて、そのクルマならではの部分にリソースを集中できる。TNGAがクルマを進化させる理屈はそういうことだと思う。

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