「パンが好き」とみんなが言い始めた 平成のパンブームの正体個性的な店が生まれたワケ(1/4 ページ)

» 2019年01月03日 08時50分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 ここ数年、「パンブーム」という言葉がもてはやされるようになった。だが、私たちがパンをよく食べるようになったのは、もっと前からだ。平成の時代を振り返ると、日常的に口にするパンの種類が増え、多種多様なパン屋が次々と生まれ、さらにはパンだけのイベントに長い行列ができるまでになった。

 総務省の家計調査によると、1世帯当たりの年間の品目別支出金額は、コメが減少しているのに対して、パンは微増傾向。2010年ごろにパンとコメが同水準となり、14年からはパンが上回っている。コメの減少の原因として「コメよりも、調理済みのご飯を買う人が増えた」ことも指摘されているが、パンへの支出は確実に増えているようだ。

 「みんなが『パンが好き』とあえて言うようになった。パンが“単なる主食”ではなくなったのです」。そう語るのは、パンの研究所「パンラボ」を主宰し、『食パンをもっとおいしくする99の魔法』などの著書もあるパンライター、池田浩明さんだ。確かに、ちまたには「パン好き」というフレーズがあふれ、個人がパンの情報を発信することも珍しくなくなった。

 パンが好き、と言い始めた私たちはパンに何を求めてきたのか。そして、パンブームはこれからどこに向かうのか。池田さんと一緒に近年のパントレンドを振り返り、ブームが残したものを探っていく。

photo パンブームは何を残したのか(写真提供:ゲッティイメージズ)

個人店が注目される「巨匠の時代」へ

 「個人的な話なんですが、30年前に上京したころ、池袋の東武百貨店や西武百貨店によく行きました。そこに入っていた『ドンク』や『アンデルセン』『ポンパドウル』が当時の最先端。『どれを食べてもうまい』と感動したのを覚えています」

 池田さんはそう言って懐かしそうな顔をした。テレビや雑誌、インターネットなどで当たり前のようにパンの情報を得られるようになったのは最近の話。当時はスイーツが取り上げられることはあっても、パンの情報は少なかったという。

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