日本企業にも普及するのか? タレントマネジメントの今(2/5 ページ)
近年「タレントマネジメント」というシステムが注目を集めている。海外のグローバル企業を中心に広まっているが、日本企業の普及は遅い。その理由について、リクルートワークス研究所の石原氏に聞いたところ……。
能力を持った社員を最速で成長させる人材育成メソッド
――日本でタレントマネジメントはいつごろから注目されてきているのでしょうか。
石原: 私がタレントマネジメントを提唱するようになったのは2012年ごろなのですが、その頃に動きが活発だったのは、ITのソフトウェアやシステムのベンダーが中心でした。つまり、HRシステムの中にタレントマネジメントの機能を盛り込んでいったのです。「全世界の人材を把握できる人事データベースを構築して、そこに社員の強みや弱み、経歴を全て入力して、どんな人材がどこにいるのかを管理しましょう。次のポストにふさわしい人材を瞬時に探し出せるようにしましょう」というわけですね。
タレントマネジメントの中でも人材データベースの構築やそれに伴う人事評価の比較という部分に注目が集まりすぎてしまい、これができれば「うちはタレントマネジメントをやっている企業だ」ということになってしまったのです。
――タレントマネジメントの本来の目的が理解されていないということですね。では、タレントマネジメントは本来どのような目的で導入されているのでしょうか。海外企業では日本よりも先に人事システムへの導入が進んでいるとうかがっていますが。
石原: 欧米のグローバル企業の事例を研究して分かったのですが、海外のタレントマネジメントにはいくつかの段階があります。2012年に視察した欧州のグローバル企業の事例では、タレントマネジメントは主に“リーダーの育成”を一番の目的として導入されており、ごく一部の優秀な社員をより早く育成して、より早く経営に近いポジションにまで引き上げるというセレクティブな意味合いで実践されていました。実際、企業の中には全社員の中の限られた数の社員だけを対象にタレントマネジメントを導入しているケースはあります。
海外でタレントマネジメントを最も熱心に実践していると感じるのは、GE(ゼネラル・エレクトロニクス)とIBMだと思うのですが、両社はタレントマネジメントを人材マネジメントに対する思想そのものだと位置付け、全社員を対象に行うに至っています。これはなぜなのか。タレントマネジメントを“次のリーダーを育成することだ”と定義した場合、候補となる人材にはいろいろな経験を積ませ、さまざまな試練を与えることでその人材が次のリーダーにふさわしいかを見極める必要があります。
会社の次のトップを選ぶためには、その下の層の人材を育て、その中からセレクションを行う。すると、空いたポストにふさわしい人材を選ぶためにさらに下の層の人材を成長させていく必要がある。「自分が昇進したあと、このポストを部下に任せるためにはさまざまな経験を積ませて育てなければならない」という思想を最下層まで下ろしていくと、実は一番若い社員も含めて全社員を対象にしたタレントマネジメントを行う必要性につながっていくのです。
つまり、タレントマネジメントというのは、世界中のどこからであっても高い能力を持った人材により大きなチャンス与えることで、彼らの成長スピードを最速化させることができる育成手法だと思うのです。「世界中のどこからであっても」というのは大きなポイントで、例えば米国のグローバル企業が買収したスペインの子会社のトップが非常に優秀であれば、数年後には米国本社の経営陣にいる可能性もある。
GEやIBMのような海外のグローバル企業が実践しているタレントマネジメントは、組織の垣根を超えて個人の能力を見極め、飛躍できる大きなチャンスを与えて育てていくということなのです。こういった発想のタレントマネジメントは、マイクロソフト、ヒューレット・パッカード、ネスレ、ジョンソン&ジョンソンをはじめ、今や欧米のほとんどのグローバル企業が取り入れています。
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