本を読む人は何を手にするのか 日本に“階級社会”がやってくる:水曜インタビュー劇場(藤原和博さん)(4/5 ページ)
「これからの日本は『本を読む習慣がある人』と『そうでない人』の“階層社会”がやってくる」という人がいる。リクルートでフェローとして活躍され、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんだ。その言葉の真意はどこにあるのか。話を聞いた。
作品は作家の「脳のかけら」
藤原: すべてを経験することは不可能なので、ある人の経験を擬似的に味わうことが大切なんです。それが「本」。
例えば、村上龍さんの『半島を出よ』(幻冬舎)で考えてみましょう。村上龍さんは、この小説を書くまで、北朝鮮のことを詳しく知らなかったそうです。そして、どういった人たちが住んでいるのかを知るために、膨大な資料を読破されました。北朝鮮関連だけで95冊。このほかにも国際法関連、少年兵関連、武器関連などを合わせると、205冊の書籍が引用されている。さらに、映像資料を38本見て、脱北者などへのインタビューも行っています。
小説の構想から10年が経って、執筆を始められました。『半島を出よ』を読むということは、村上龍さんがそれに注いだ時間を読むことになります。構想から10年の思索、200冊を超える書籍、たくさんの専門家へのインタビュー取材を行って、考え抜いたストーリーを共有することができるんですよね。
私はこのように考えています。作品は作家の「脳のかけら」だと。その脳のかけらを、私たちは本を読むことで自分の脳につなげけることができるのではないでしょうか。
ちなみに、私が村上龍さんのように小説を書こうとすればどうなるか。10倍くらいの時間がかかるかもしれません。いや、そもそも完成しない可能性のほうが高いでしょう。
先ほども申し上げましたが、人生の時間は限りがあるので、自分が見て体験ができることには限界があります。だから、他人がゲットした脳のかけらを自分の脳にたくさんくっつけることができれば、もっと情報編集力が豊かになるのではないでしょうか。
土肥: 本を読まない人は、集団での体験に影響されやすくなるわけですか。
藤原: ですね。ただ、本やインターネットからの情報をたくさん手にいれるだけでは、人間は成長することができません。本を読むことは大切ですが、さまざまな実体験を積むことも重要。仕事ができるビジネスパーソンをみていると、みな体験を重視しています。経験主義ですね。まずは、現地に行って、そこで五感を鍛えている。でも、それだけでは限界があるので、本で情報を補完するんです。
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