「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっているらしい。
2月10日の『朝日新聞』では、春節で訪れた中国や台湾からの観光客に京都の西陣織会館の「きものショー」が大盛況だと報じた。吹き抜けの2階部分や階段まで立ち見状態で、9日だけでも約1000人が押しかけたという。
欧米からの観光客の日本土産でも「KIMONO」は鉄板ともいうべき人気を誇る。レディ・ガガが火付け役となった「着物風ウェア」人気の影響もあってファッションアイテムとして注目を集めているほか、「日本の伝統文化体験」の定番になりつつある。2015年8月の『日経新聞』では、浴衣の1日レンタルで観光を楽しむ訪日外国人客が一昨年より2倍に増えたという着物レンタル店の声を紹介している。
そんな景気の良い話に水を差すわけではないが、「外国人に着物が大人気」「着物でおもてなし」などと能天気に浮かれていられない「不都合な真実」を指摘した本が先日、発売された。
『国宝消滅―イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』(東洋経済新報社)である。
著書はこのコラムで何度か登場しているデービッド・アトキンソン氏。金融機関の不良債権問題を誰よりも早く指摘した「伝説のアナリスト」として活躍後、その経済に対する厳しい分析眼と、日本の伝統文化への深い造詣から、300年続く文化財修理会社の経営を託された異色の人物である。
アトキンソン氏は新著で、「国宝」や「伝統文化」が生かし切れず衰退の一途をたどっている今の日本の現状に対してかなり厳しい苦言を呈しており、その中で、和装振興研究会の委員として、そしてひとりの着物愛好家として、「着物」という産業が抱える問題にも言及している。
絹糸のほとんどは中国産です。(中略)それより驚いたことに、仕立ての半分以上は、ベトナムなど海外の職人が行っていると言われています。(P318)
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