日産の国内戦略を刺激したノートe-POWER:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
ここしばらく国内でほとんどリリースせず、存在感が希薄化していた日産だが、昨年にノートのハイブリッド車、e-POWERでヒットを飛ばした。販売店にとっても救世主となったこのクルマの実力に迫った。
ここしばらく国内でほとんどクルマをリリースせず、存在感が希薄化していた日産だが、昨年突如ノートのハイブリッド車、e-POWERでヒットを飛ばした。
国内でこそ存在は希薄だが、実は日産の経営は順調だ。主戦場が日本ではなくアジアの新興国に移っただけだ。企業戦略としては上手くいっているのである。ただし、それは本体だけの話で、販売会社にとっては海外での成功は全く関係ない。国内で日産車が売れてくれないと死活問題になる。
幸いなことにここしばらく、三菱との合弁事業であるNMKVの軽自動車デイズが好調だったのだが、三菱の燃費不正事件を背景にそこも暗雲が立ち始めた。その矢先にヒットしたe-POWERは、販売店にとってはまさに救世主のような存在なのだ。
震災とリーフとノート
ノートはマーチのバリエーション車種である。バリエーションにはジュークやキューブもあるので、e-POWERで上手くいった日産は、当然これらの車種に対してもe-POWERの設定を考えているはずだ。
このe-POWERについてはもうあちこちで散々触れられているので、簡単に要約して説明すると、タイヤを回すのは全部モーターの仕事であり、その電気をエンジンで発電する。従来のハイブリッドのように、タイヤを回す仕事をモーターとエンジンで適宜交代しながら走る方式とはそこが全然違う。
なぜそうなったのか? その理由を説明するには、日産が社運を賭けて取り組んだ電気自動車リーフの話から始めなくてはならない。
日産はリーフを「スマートグリッド構想」に則ったクルマとしてリリースした。それは単純に自動車としての機能だけでなく、社会インフラの一部に組み込まれた新しい自動車の姿だった。原子力発電は一度炉を稼働させれば、そう簡単に出力を変えられない。昼間の電力需要のピークに合わせれば、当然夜間は余る。しかし電気は原則的に貯めておくことができない。この夜間の余剰電力を電気自動車のバッテリーに蓄え、日中はその電力で走行したり、週末しか使わないクルマならば、家庭の電力をまかなったり、あるいはこれを売電することができる。
こうしたスマートグリッド構想が稼働すれば、電力会社は、ピークに合わせて新規に発電所を建設したり、場合によっては老朽化した原子炉を更新せず、廃炉にするだけで済むことになる。この構想は非常によくできていて、日産側は走行用バッテリーの処分問題も解決できるスキームになっていた。電気自動車のバッテリーは劣化すると航続距離が落ちてしまう。それでは困るので定期的に交換するのだが、このバッテリーは実はクルマのような運用でなければまだまだ使えるので、中古のバッテリーをリユースして、電力会社に蓄電設備を供給する研究が行われていたのだ。
つまり電気自動車とスマートグリッド、さらに中古電池が電力需要のアイドルタイムを画期的に削減し、インフラ電力に大いなる貢献をする。それはもしかしたら電力料金が変わるほどのインパクトがあったかもしれない。そうした国家レベルの大きな動きの中で、リーフは恐らくさまざまな補助制度を利用できることになっていたはずである。
しかし、このプランは、リーフの発売3カ月後に起きた東日本大震災によって瓦解した。あれから6年が経過した今も、原発の再稼働が一体どうなるのかが見えてこない。当然リーフの販売も宙ぶらりんになったままだった。
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