小田急電鉄「保存車両全車解体」デマの教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
開業90周年、ロマンスカー・SE就役60周年と記念行事が続く小田急電鉄について、「新社長の指示で保存車両を全て解体するらしい」という怪文書が出回った。正確には一部解体にとどまり、将来の博物館建設につながる話でもあった。ほっとする半面、この騒ぎから読み取っておきたいことがある。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
6月24日、小田急相模大野駅に隣接する車庫「大野総合車両所」に懐かしい車両の姿があった。引退したロマンスカー10000形「HiSE」だ。先頭車に伝統の展望席を設け、他の座席は眺望に配慮してハイデッカー(高床)構造とした。先頭車は、先代7000形LSEより鋭い角度の流線型で人気があった。
しかし、自慢のハイデッカーがアダとなり、先代7000形LSEより先に引退した。2000年に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」、いわゆる交通バリアフリー法が制定された。1987年に製造された10000形HiSEは、20年経過をめどに車体更新、つまり延命工事が必要だった。
ところが10000形HiSEは、乗降口に階段があるため、車椅子対応は困難と判断された。そこで、先に投入した7000形LSEをバリアフリー対応して延命させ、10000形HiSEは新型の50000形VSEと交代する形で引退させられた。
10000形HiSEは4編成あった。2編成は長野電鉄に譲渡され、編成を短縮しバリアフリー対応を実施して現在も活躍中だ。小田急側に残された1編成は廃車解体。残り1編成は、先頭車2両と中間車1両が喜多見検車区に保存され、残り8両は廃車解体となった。
大野総合車両所に現れた10000形HiSEは、喜多見で大切に保存されていたはずの3両だ。6月24日未明に通勤車両に連結されて回送される姿が目撃されている。始発電車が動き出して以降、Twitterなどで目撃報告写真が続々とアップされ始めた。
この段階では好意的な見方が多かった。小田急電鉄は7月6日から、ロマンスカー3000形SEの就役60周年を記念するキャンペーンを行う。車体にロゴマークを掲出したり、アテンダントに往時の車内販売の制服を着用させたりと祝賀ムードを盛り上げる。大野総合車両所の10000形HiSEも、喜多見検車区の奥から引き出されたからには、公開イベントなどを実施するのではないか、という臆測があった。大野総合車両所はたびたび一般公開イベントを実施している。
しかし、大野総合車両所にはもう1つの顔がある。廃車解体業務だ。その懸念を裏付けるように、内部告発のような怪文書が小田急電鉄OBに向けて出回った。原本は、差出人不明で郵送された書状だったという。
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