小田急電鉄「保存車両全車解体」デマの教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
開業90周年、ロマンスカー・SE就役60周年と記念行事が続く小田急電鉄について、「新社長の指示で保存車両を全て解体するらしい」という怪文書が出回った。正確には一部解体にとどまり、将来の博物館建設につながる話でもあった。ほっとする半面、この騒ぎから読み取っておきたいことがある。
怪文書の内容とは
そこには、新社長の方針で保存車両の解体が決まったこと、車両の保管によって業務に支障があり、車両部長が会合の席で「今後当社は一切車両の保存をしない」と公言したなど、衝撃的な内容が書かれていた。続いて新社長批判の文言が並び、車両保存は郷愁やファンのためではなく、過去の技術を後世に伝える産業遺産としての価値がある、と続く。
締めくくりは、廃車解体を防ぐために外部の人々に実情を知らせ、鉄道趣味者だけでなく、産業遺産、文化遺産に関心を持つ人も巻き込んで世論を盛り上げたい。そのために、マスコミにも知らせたい、と結んだ。つまり、その意をくんだ人が私に怪文書を転送してくれた次第だ。
私は怪文書(をタイプした文書ファイル)を受け取ったものの、扱いには悩んだ。提供してくれた人は信頼できる。情報としても、保存車両の形式、回送日、解体業者引き渡し日が記されており具体的だ。実際に10000形HiSEは大野総合車両所に移動している。文書では6月29日となっていて、実際の6月24日とは異なる。しかし、計画が前倒しになっているとしたら、急いで対処しなくてはいけない。
小田急電鉄は10年前、開業80周年を記念して、インターネット上に「小田急バーチャル鉄道博物館」を公開した。現在も公開している。なるほど、自社の博物館を持たない会社としてはこういう方法もあるか、と感心した。実際の車両がなくても、思いは残せる。会社としてそういう判断をしたと言えそうだ。
小田急電鉄広報に電話してみたところ、「えっ、大野にHiSEですか、知りませんでした。確認します」と言われたまま。翌日も連絡はなかった。しかし、これでハッキリしたことはある。広報が知らないということは、間もなく始まるロマンスカー3000形SEの就役60周年記念キャンペーンとは無関係だ。あるいは、この件に関しては言えない、都合が悪いのかもしれない。こうして“保存車全車解体デマ”について、状況証拠ばかり積み上がっていく。
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