小田急電鉄「保存車両全車解体」デマの教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
開業90周年、ロマンスカー・SE就役60周年と記念行事が続く小田急電鉄について、「新社長の指示で保存車両を全て解体するらしい」という怪文書が出回った。正確には一部解体にとどまり、将来の博物館建設につながる話でもあった。ほっとする半面、この騒ぎから読み取っておきたいことがある。
小田急ファンの“神様”が動いた
「小田急が保存車両を解体する」というデマはTwitterやブログに拡散しつつあった。怪文書もアップされた。内容は鉄道ファン視点の経営陣批判を含んでおり、放置すれば小田急電鉄と鉄道ファン、ともに品格を疑われそうだ。
この事態を収拾するために動いた人物がいる。生方良雄氏。大東急に入社し、分社後は小田急電鉄に在籍。ロマンスカー3000形SEなどの開発に関わり、車両部長、運輸計画部長ののち、箱根ロープウェイの専務取締役を務めた。現役時代から鉄道雑誌に寄稿しており、小田急電鉄関連で多数の著書がある。小田急ファンにとって神様のような存在だ。
生方氏は小田急電鉄に問い合わせると同時に、会長と社長に全車解体をしないよう書面で申し入れた。それが6月27日。29日には生方氏の知人が株主総会で保存車両と博物館建設について質問したという。7月3日、生方氏は小田急電鉄広報部長と車両担当課長と面会し、説明を受けたそうだ。
結論から書くと全車解体ではなく、3分の1にあたる7両の解体であった。
生方氏の見立てによると、「10000形 喜多見から相模大野へ回送」という業務告知を見た社員が疑問を感じ、関係者に聞きまわったところ、解体日が決まっていた。それで10000形が3両とも廃車解体されると思い込み、他の保存車の回送予定もあることで大ごとだと感じ、仲間へ触れ回った。きっと小田急が好きで小田急に入社した人だろう。電車をないがしろにする上層部に落胆した。その思いがつのって、辛らつな経営批判につながったと言えそうだ。
「うわさは怖いですね。しかし、犯人捜しをしてはいけません。小田急も、今後はできるだけ正しい情報を流すよう気を配るそうです」(生方氏)。
生方氏への取材のあと、小田急電鉄広報からも回答があった。「HiSEについては先頭車を残して中間車は解体します。60周年事業は発表通りの内容で、この車両とは関係ありません。保存車全車解体という方針ではなく、各車種を少なくとも1両は残そうと苦心しました。社長も車両部長も、むしろ社内外で残したいと発言しており、うわさについては残念に思っています」とのことだった。
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