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小田急電鉄「保存車両全車解体」デマの教訓杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

開業90周年、ロマンスカー・SE就役60周年と記念行事が続く小田急電鉄について、「新社長の指示で保存車両を全て解体するらしい」という怪文書が出回った。正確には一部解体にとどまり、将来の博物館建設につながる話でもあった。ほっとする半面、この騒ぎから読み取っておきたいことがある。

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小田急電鉄の真意は“在庫の整理”

 生方氏によると、小田急側の事情は次の通り。2018年3月に下北沢地区の複々線化工事が完成し、ダイヤ改正を実施する。これに合わせて、新型特急車両70000形も完成する。ただし、現在の特急車両の引退はない。つまり、特急の増発が行われる。私の予想では、近年需要が増している“座れる通勤電車”を考慮しているのだろう。

 喜多見車両基地は都心に近く、特急電車の運用基地として重要だ。車両は純増となるから、保存車を置く場所を減らしたい。そこで、会社として保存車両数の見直しを行った。その詳細は以下の通りだ。

  • モハ1形10号は喜多見で保存(小田原急行鉄道開業当時に使われた電車。1927年製)
  • ロマンスカー10000形HiSEは先頭車1両のみ保存、先頭車と中間車1両ずつ解体(ハイデッカーと鋭角的な先頭車両が特徴。1987年製)
  • ロマンスカー20000形RSEは先頭車と中間車1両ずつ保存、先頭車1両解体(中間車は2階建て。JR東海に乗り入れる「あさぎり」に使用。1991年製)
  • ロマンスカーNSE3100形は先頭車2両と中間車1両の計3両を保存、中間車3両解体(小田急初の先頭車前面展望席を採用。1963年製)
  • 通勤形2200形は先頭車1両を保存、1両解体(先頭車前面2枚窓。小田急の高性能通勤電車の基礎を築いた。1954年製)
  • 通勤形2600形は先頭車1両を保存、現状維持(初の20メートル級大型車。“小田急顔”の保存車。1967年製)
  • 通勤形9000形は先頭車1両を保存、現状維持(初の地下鉄乗り入れ対応車。独特の前面形状は他社にも影響を与えた。1972年製)
  • ロマンスカー3000形SE5両は海老名保管庫で保存、現状維持(連接車体を採用し、狭軌の世界最高速度記録保持。日本の鉄道高速化の礎となった。1957年製)

 今回の解体車両数は7両、保存車両数は合計15両となる。この結果について生方氏は「やむを得ない」と語った。解体ではなく、譲渡も検討したという。しかし、これらの車両はアスベストを使用しており、管理放棄や災害などで劣化、破損した場合、譲渡側の責任も問われる。また、大野総合車両所から搬出する場合は車体の切断が必要。拠出駅の変更は搬出経路などの設定や許可に時間がかかり、差し迫る用地難に間に合わない。

 「2200形の駆動装置は当時最高の技術であり、狭軌の小田急では開発に苦労したそうです。こうした部品や機構だけでも大学や研究機関で引き取っていただけないだろうか」(生方氏)。

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小田急の新型ロマンスカー70000形の外観イメージ。2017年内に2編成が登場し、18年から営業運転を開始する。この車両の保管場所を確保するために保存車両の整理が決まった

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