ネットの広告ビジネスは消耗戦に入っている:“いま”が分かるビジネス塾(2/2 ページ)
動画広告は今後の伸びが期待できる分野である一方、広告単価は下落が続いているともいわれる。市場の注目は、単価の下落をPV数がカバーするという図式がいつまで続くのかという部分である。
広告に依存するビジネスは曲がり角を迎えている
この状況についてどう解釈すればよいのだろうか。Googleは以前からクリック単価の下落について、動画配信サイトYouTubeの動画広告拡大の影響が大きく、見かけ上のものに過ぎないと主張している。
Googleは検索連動広告と動画広告における個別の業績は開示しておらず、動画広告がどの程度、収益に貢献しているのか、単価下落がどの程度なのかは分からない。
だが、動画コンテンツの視聴が急増し、ネット広告に占める動画広告の比率が上昇していることを考えると、動画広告が売上高の伸びに大きく貢献していることは間違いないだろう。
動画広告における閲覧当たりの単価は、著名なYouTuber(YouTubeへの動画投稿で生計を立てる人のこと)を多数抱える芸能事務所UUUMが上場したことで、ある程度の推測が可能となった。16年5月期における同社の広告売上高と所属タレントの動画再生回数などを総合すると、閲覧当たりの広告単価は0.1円程度と考えられる。
動画広告の単価は、コンテンツの再生回数に大きく依存しており、動画によってかなりの差があるはずだ。閲覧回数が少ないと0.01円や0.02円というレベルまで単価が下がる一方、クリック率が高い動画の場合には、もっと高い単価が設定されることもあるようだ
しかし、このところYouTuberの収入が大幅に減っているとのうわさは根強く、動画広告の単価は相当な水準まで下落していると考えるのが自然だろう。そうなってくると市場の注目は、単価の下落をPV数がカバーするという図式がいつまで続くのかという部分に絞られてくる。
これまでもGoogleがクリック単価の大幅な下落に直面したことはあったが、そのたびにモバイル利用者の増加や動画サービスの拡大など、アクセスを稼ぐ材料が出てきたことでカバーすることができた。今のところ、動画サービスの登場を上回る効果をもたらす新しいコンテンツは出てきていないため、今後も飛躍的なPV数の伸びを継続できるのかは何ともいえない。
一方、AI(人工知能)が企業の現場に浸透するにつれ、Web媒体については、同じ労力でより多くのコンテンツを作成できるようになってきた。ネット全体の閲覧数が大きく伸びない中で、コンテンツの分量だけが増えることになると、コンテンツ提供者1人当たりの収益は大幅に減少することになる。
ネットでの動画視聴はまだ伸びる余地があることから、しばらくは絶対数の拡大が期待できるかもしれない。だがネット広告の世界は完全に消耗戦のフェーズに入っている。広告に依存するビジネスが曲がり角を迎えていることはだけは間違いないだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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