「広辞苑」10年ぶり改訂 編集者が語る“言葉選び”の裏話:言葉はいつの間にか生まれ、死んでいく(1/4 ページ)
2018年1月に、国民的辞書「広辞苑」の第7版が発売される。「アプリ」「クラウド」「ビットコイン」などのIT用語や、「萌え」「クールビズ」など過去に掲載を見送った言葉が新たに追加されるという。広辞苑の編集者は、どのような方針や考え方で項目を選んでいるのだろうか。
2018年、国民的辞書「広辞苑」(岩波書店)が10年ぶりに生まれ変わる。
18年1月に発売予定の第7版には、「アプリ」「クラウド」「ビットコイン」「ブラック企業」「ちゃらい」など1万項目を追加し、計約25万項目を収録する。「炎上」の項目に「インターネット上で、記事などに対して批判や中傷が多数届くこと」が書き加えられるなど、解説文も時代に即したものに変わる。
広辞苑の第1版は、太平洋戦争の終戦から10年が経過した1955年に発行された。その元になった辞書は、戦前に「博文館」という出版社が発行していた「辞苑」だ。
戦前に改訂する予定だったが、開戦によって中断。戦火で大半の活版を焼失し、新版の発行は困難と考えられていたが、現在の発行元である岩波書店が終戦後に改訂作業を引き受けた。
その後は、残っていた校正刷りをベースに、終戦に伴って米国から入ってきた民主主義思想や外来語を盛り込むなど7年あまりの編集作業を経て、広辞苑として世に出ることとなった。
それから約60年が過ぎ、広辞苑も時代の移り変わりと共に進化してきた。東日本大震災など時代の転換点を経て世に出る第7版は、どのような方針で編集されたのだろうか。岩波書店 辞書編集部の平木靖成副部長に話を聞いた。
10年というスパンは「たまたま」
第6版の発行からちょうど10年。切りのいいタイミングに見えるが、平木さんは「特に『10年』という数字は意識していなかった。外部の著者とのやりとりや原稿の編集作業に時間を要した結果、たまたまこうした結果になった」という。
「広辞苑の基本方針は『日本語として定着した言葉を入れること』。項目を選ぶ際は、社会の状況を踏まえて、言葉の定着度を丁寧に観察する必要がある。数年経てば消えてしまう流行語と、本当に使われるようになった言葉を見極めるには、10年程度の期間が必要だ」(平木さん)
改訂の間隔が最も短かったのは、91年の第4版から98年の第5版までの7年間。「発行するぎりぎりのタイミングで共産主義の崩壊やソビエト連邦の解体などが起きた。編集作業が追い付かず、ソ連関係の項目を修正できないまま発行してしまったため、すぐに改訂した」という。
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