「広辞苑」10年ぶり改訂 編集者が語る“言葉選び”の裏話:言葉はいつの間にか生まれ、死んでいく(2/4 ページ)
2018年1月に、国民的辞書「広辞苑」の第7版が発売される。「アプリ」「クラウド」「ビットコイン」などのIT用語や、「萌え」「クールビズ」など過去に掲載を見送った言葉が新たに追加されるという。広辞苑の編集者は、どのような方針や考え方で項目を選んでいるのだろうか。
震災を機に定着した「クールビズ」が追加
最新版を発表して以来、平木さんの元には問い合わせが殺到。新項目を追加した理由を聞かれるケースが多かったという。
「なぜ『ちゃらい』『がっつり』を入れたんですか? などとよく聞かれたが、大半の項目は『編集部が世の中を注視し、定着したと判断したから追加した』としか答えようがない。細かな理由があって入れた項目はごく少数だ」と話す。
編集部が熟考の末に追加を決めた“少数派”の項目の1つが「クールビズ」だという。
「クールビズという言葉は、05年頃に環境省などが公募して生まれた。経験上、お役所が提唱した言葉はあまり定着しない傾向にあるため、第6版にはあえて掲載しなかった。しかし、11年の東日本大震災を機に認知度が大きく広がった。節電対策の影響で『当社はクールビズだから、夏場はノーネクタイです』などと当たり前に言われるようになり、日本語として定着したと判断した」
言葉はいつの間にか生まれ、死んでいく
第7版に追加された「萌え」も、第6版では掲載を見送っていたという。長年使用されてはいるが、特定のコミュニティーでのみ通用するスラングなのか、定着した言葉なのかを判断しかねたためだ。
「10年ほど前から、インターネット上で『萌え〜!!』という文言をよく見かけるようになった。ただ当時は、名詞や間投詞などさまざまな使い方がされており、用法がはっきりしなかった。いつの間にか消えていくかもしれないな……と考えていたら、意外と定着してしまった」
現在、「萌え」は人や物、キャラクターへの愛情を示す言葉として定着。「鉄道萌え」「工場萌え」「廃墟萌え」「制服萌え」など、接尾辞として使われるようになっている。
「用法が定着して使いやすくなったことで、『萌え』は一般に広まった。ただ、入れ替わりが激しいネットスラングの中で、この言葉がなぜ生き残ったかは分からない。言葉というものは、いつの間にか生まれて、いつの間にか死んでいくものだ」
一方、「クールビズ」「萌え」とは対照的に、現在は特定のコミュニティーで使われているものの、第7版への掲載を見送った言葉もあるという。
「『ディスる』『キショい』『ツンデレ』は、単なる若者言葉なのか、広く定着しているのかが分からない。今後も動きを追っていく」
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