「広辞苑」10年ぶり改訂 編集者が語る“言葉選び”の裏話:言葉はいつの間にか生まれ、死んでいく(3/4 ページ)
2018年1月に、国民的辞書「広辞苑」の第7版が発売される。「アプリ」「クラウド」「ビットコイン」などのIT用語や、「萌え」「クールビズ」など過去に掲載を見送った言葉が新たに追加されるという。広辞苑の編集者は、どのような方針や考え方で項目を選んでいるのだろうか。
広辞苑が世に出る仕組み
現在、広辞苑編集部には約10人が所属している。改訂前はやや少ない人数で業務に当たっているが、広辞苑を改訂するタイミングになると他部署からメンバーが異動してきて体制を強化するという。
「広辞苑編集部はサッカーの日本代表に似ている。改訂の5年ほど前になると、文芸、雑誌、営業など、さまざまな部署からメンバーが集まり、終わったら散っていく」
平木さんによると、メンバーが集結する前の5年間は「潜伏期間」。知人や同僚との会話やメディア報道、インターネット上の投稿などから追加する項目の候補を集めたり、読者の相談に応じたりしながら、ゆっくりと次版の方針を定めていく。
「初めて聞いた言葉があれば、PCのデータベースに適宜追加する。第7版を編集する際は約10万語を集めた。また、読者からは『この漢字の使い方をもっと詳しく教えてほしい』などの相談が日々寄せられる。読者とのやりとりの内容も蓄積し、次版に生かしている」
“代表選手”を集めて解説文作り
次版の発行が決まり、各部署から“代表選手”が集ってくると、編集部の業務は一気に加速。追加を決めた項目や、修正する項目の解説作りが始まる。
広辞苑は「百科項目」と「国語項目」に分かれているが、百科項目の解説文は外部の大学教授などに原稿を依頼している。国語項目も著者に執筆を依頼するが、編集部員たちも自ら推敲(すいこう)を重ね、国語分野の監修者に確認してもらう。
「編集部員は、理科、文学、歴史などの担当分野を持ち、外部の執筆者を選んで『この項目に修正が必要かチェックしてください』『新しい解説文を書いてください』などと依頼する。原稿が届き次第、編集部員が整理する形で業務を進めていく」
第7版の執筆陣は220人ほどで、中にはジャーナリストの池上彰さんなども含まれている。
編集作業が終わると、分野ごとに管理していた項目を全て集め、1冊の本にまとめ上げる作業に移る。
「まずは項目を50音順に並べ替えることから始める。その後、項目間の参照関係が整っているかや、解説文の重複がないかを確認する」
「例えば『DNA』は『デオキシリボ核酸』の略語だが、両方の項目に同じ解説文を載せてもスペースの無駄。こうした場合は、DNAの解説文に『デオキシリボ核酸を参照のこと』とだけ記し、効率性の向上を図っていく」
こうしたプロセスを経て、広辞苑は完成を迎える。
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