両備グループ「抗議のためのバス廃止届」は得策か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
岡山県でバスなどを運行する両備グループは、ドル箱路線に格安バスの参入を認めようとする国交省中国運輸局の決定に抗議して、赤字運行のバス路線31本を廃止すると発表した。その大胆な戦術に驚くけれども、その直後に参入を決定した中国運輸局もすごい。まるで「テロには屈しない」という姿勢そのものだ。
2月8日、岡山県の岡山市郊外と倉敷市郊外のバス路線のうち、計31路線の廃止が発表された。両備バスが18路線、岡電バスが13路線だ。このうち20路線の廃止予定日は2018年9月末日、11路線は19年3月末日。どちらも岡山県でバスなどを運行する両備グループのバス会社である。
廃止の理由を突き詰めれば「赤字だから」だ。ただし、廃止届を出した理由は「国に対する抗議」だという。黒字路線の利益で赤字路線を支えてきたが、黒字路線に格安運賃のバス会社が参入許可を求め、国が認可する動きを見せた。動きというより、法的には問題なく認可される案件だ。むしろ、恣意(しい)的に認可を妨げれば、既得権の保護となり、その方が問題だ。誰に忖度しているのか、という話になる。
岡山市の伝統的基幹バス路線
問題の路線は、岡山駅前から岡山市東部の西大寺方面を結ぶ岡山西大寺線だ。両備グループによると「創業以来108年にわたり岡山駅から西大寺に至る伝統的バス路線」(公式サイトより)である。ただし、創業時から約半世紀は、後楽園と西大寺を結ぶ軽便鉄道で、1962年にバス転換されて今日に至った。西大寺は「はだかまつり」の奇祭で知られる寺。軽便鉄道は参詣鉄道として作られ、その名も西大寺鉄道だった。
西大寺鉄道のバス転換は赤字だからではなく、国が西大寺鉄道に並行する形で赤穂線を建設したからだ。当時、西大寺鉄道の経営母体だった両備バスは国鉄と競合する黒字の鉄道路線を失った。そこで、鉄道廃止後に国に対して約2億円の補償を再三にわたって請求し、約7300万円を勝ち取っている。
バス転換後の岡山西大寺線は地域に密着したバス路線として運行されてきた。ダイヤを工夫し、運賃改定も慎重だったことだろう。バス停の設置場所、整備維持も時代に合わせて対応し、ドル箱路線として大切に扱ってきた。公共交通で黒字を出すということは、利用者に納得できる料金で利用し続けてもらったということだ。マイカー時代を迎えても、バスを選んでもらえる路線を維持してきた。両備グループの言う「創業以来108年の路線」は、そういう重みがある言葉だ。
そのドル箱路線に参入しようと許可申請した会社は八晃運輸という。創業は2002年。サンタクシーの愛称で知られるタクシー会社で、12年から路線バスに参入した。運行範囲は岡山市中心部で、「めぐりん」という愛称で6系統の循環ルートを運行している。運賃は5路線で100円均一、1路線のみ一部200円の区間がある。新規参入ルートは岡山駅前から西へ向かい、JR西大寺駅の手前、吉井川にかかる新橋北で折り返す。両備バス岡山西大寺線と重複するルートである。
両備バス岡山西大寺線は距離別運賃を採用しており、岡山駅前〜新橋の運賃は400円だ。一方、めぐりんの新路線は100円または200円である(認可申請時の発表より)。両備バスの半額だ。両備グループにとって、「鉄道は国策でつぶされ、バスまで格安の新規参入者につぶされかけている」となれば、黙ってはいられない。その気持ちは理解できる。
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