瀬戸大橋30周年、四国は本州スーパーの草刈り場に:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
瀬戸大橋が開通して今年で30周年。その後、明石海峡大橋、瀬戸内しまなみ海道が開通したことで、2000年代以降、本州〜四国間は実質地続きになった。その影響で四国のスーパーマーケットの勢力地図が激変したのだ。
10年間で売り上げがゼロから400億円に
さきほどのランキングにも顔を出していた、本州有力企業のハローズというスーパーがある。この企業は四国フロンティアを、戦略的に攻めることで成長した代表格である(図表)。
この会社のエリア別売り上げ推移を図にしてみると、08年には四国での売り上げはなかったが、18年には400億円以上になっている。元々の地盤である中国地方での増加額のおよそ倍であり、いかに四国に重点を置いたかが分かる。ハローズは、ある時期に、広島県福山市にあった物流拠点と本社を、瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)の起点である早島インターチェンジ周辺に移転させ、そこを橋頭堡(きょうとうほ)として四国各地に進出していった。同社は、大型複合施設を出店し、周囲の小型・中型店からシェアを奪ってしまう、という勝ちパターンを着実に実行し、1200億円企業に成長していった。
こうしたことを言うと、四国のスーパーはなぜ反撃しなかったのか、という疑問を持つ方も多いと思う。進化した店舗が生まれたのであれば、その新型を出して対抗すればいい。
その通りなのだが、ある意味、箱ものでもある店舗商売では、既に造ってしまった店を新しいものに転換するのは、時間もおカネもかかるのだ。特に地域での有力企業の場合、造り替えなければならない店舗の数は多くなる。また、新しいタイプの店に適した立地条件は異なっているケースがほとんどで、同じ場所での建て替えには向かないことが多い。建物のつくり、サイズ、駐車場の規模などが違うと、前の店の広さ、道路付きでは再構築できないのだ。新規参入企業と較べて、既存店の処理にかかる費用やエネルギーの分、圧倒的に不利なのである。
それでも、小売店にとって今黒字で稼いでいる既存店舗に、改装などの追加投資をするという発想にはなり難い。そのため、小売企業の多くは基幹店舗に追加投資しないで老朽化させてしまう。売れている基幹店舗とは、消費者から評価されているから流行っているのだ、と考えている経営者が少なくないが、実際には、ほとんどの消費者は、自分の行ける範囲で現時点では一番マシだから行く、という理由で選んでいるだけだ。
消費者が店を選ぶ基準など消去法にすぎず、環境変化(競合店、道路整備、住宅開発などが変わる)によって店舗の運命など一瞬で変わってしまう。既存店はドル箱でもあり、かつ、アキレス腱でもある。防衛のためには、少なくとも定期的な改装の実施と環境変化の継続チェックが欠かせないが、消費者動線と競合企業の状況が大きく変化したケースでは、既存店は放棄するしか手がないことも多い。変化スピードが速い時代に、回収期間の長い投資は将来に禍根を残すばかりである。
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