「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのか:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
ラーメン店「一蘭」といえば、食事をするスペースが仕切られている味集中カウンターが有名である。珍しい光景なので、外国人観光客も写真を撮影しているのでは? と思っていたら、店員さんに「オーダー用紙を持ち帰りたい」という声が多いとか。なぜ、そんな行動をしているのかというと……。
サービスや商品の価値をどうやって上げていくのか
店員と言葉を交わすことなく好みを伝えられるオーダー用紙や、ひとりひとりがラーメンと向き合う味集中カウンターなど次々とユニークなシステムを編み出した真意を筆者が尋ねると、吉冨社長はこう答えた。
「商売というのは結局、ブランドなので人と同じことをしてもしょうがありません。しかも、ラーメン屋は参入障壁が低いのでとにかく目立つことが重要。でも、人と違うことをして注目されても肝心のラーメンがまずかったらお話にならない。例えば、『今日変わったラーメン屋に行ってきたよ』と言われると、人は『そこ、おいしいの?』と必ず聞く。そこで味が悪かったらそれまでですが、逆においしかったらクチコミは広がっていきます」
つまり、「ここだけでしかできない」というオンリーワンの来店体験に加えて、客を納得させるだけのクオリティが提供できれば、自然とクチコミは広がっていくというのである。これが机上の空論でないことは、全国77店舗(2018年4月現在)という実績と、遠い海の向こうからわざわざ一蘭のために来日する外国人が多くいる事実が雄弁に語っている。
このような話を聞くと、「よし! じゃあウチも外国人観光客に来てもらうため、どしどし目立つようなことをするぞ!」と意気込むインバウンド関係者もいるかもしれないが、ノープランで人と違うことをやっても残念な結果に終わってしまうかもしれない。吉冨社長によれば、満足度を上げるために秘けつがあるからだ。
「中味と外見があるとすれば、必ず中味のほうが外見をちょっとだけでも上回ってないといけない。例えば、アルマーニのような高級スーツを着ている人が脱いでガリガリだとガッカリしますが、ユニクロを着ている人が脱いでムキムキだったらカッコイイと思うものです。これは商売すべてにあてはまり、外でうたっていることより、中味が少し上回っていれば満足度は上がる。これは生産性を上げる秘けつでもあると思います」
この話は非常にハラ落ちをした。
今、日本では生産性向上がなにかと論じられている。どうすれば生産性が上がるのかという視点もあれば、賃金を上げれば解決するという人もいれば、そもそも日本の生産性は低くいというのは嘘であって我々ほど生産性の高い民族はいない、と開き直っているような人もいる。
正直どれもあまりピンとこないのは、吉冨社長のような、サービスや商品の価値をどうやって上げていくのか、という発想がゴソっと抜け落ちているからだ。
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