自動車メーカー「不正」のケース分析:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の3社が排出ガス抜き取り検査についての調査結果を国交省へ提出した。これを受けて、各メディアは一斉に「不正」として報道した。しかしその内容を見ると、多くが不親切で、何が起きているのかが分かりにくい。そこに問題はあった。しかし、その実態は本当のところ何なのか、できる限りフラットにフェアに書いてみたい。
完成検査問題
完成検査とは、言ってみれば「ゼロ回目の車検」である。1951年(昭和26年)に制定された道路運送車両法で定められた検査をメーカーが行う。しかしながらこの検査の内容があまりに古めかしく非現実的だ。「車体の傾きと突起物の有無」「窓ガラスの透明度や歪み」など終戦直後の工業製品の品質ならともかく、今のクルマで起こり得ない項目がほとんどを占めている。形骸化した検査項目である(関連記事:日産とスバル 法令順守は日本の敵)。
さらに言えば、現在国内のメーカーでは組み立てラインの全工程で、綿密な検査が行われている。高い能力を持つ量産ラインで、不良が出るようなやり方で生産を続ければ、あっと言う間に不良品の山になって会社がつぶれてしまう。昨年からのテスラのケースを見れば明らかなように、工程で品質が作り込めなければ、量産は覚束ない。計画通りに製品を作ることができない。だからメーカーの生命線として「品質は工程で作り込む」ことが当たり前になっており、完成時の検査に引っかかるような不良は事実上ない。そんなことがもし起きたら、工程の再設計になるからだ。
日産自動車ではこの完成検査を無資格者が行い、有資格者の検査合格印を無資格者が捺印していたとして問題になった。悪法もまた法なので、それを破ったことがルール違反なのは事実である。
ただし、この資格は「適正な技能を有する者にメーカーが資格を与える」という決まりになっていた。技能の部分に何ら法的規定がない。つまり全員に講習の1時間も受けさせて有資格者にしておけば問題は発生しなかったことになる。逆に言えばその程度の資格者で十分な検査であるとも言える。
そういう意味では手順上の誤り、形式犯ではあるが、現実的に危険が発生するようなものではなかった。
スバルの場合、もっとバカバカしい。スバルではこの検査員資格にわざわざインターン制度を設けた。十分に教育し、理解させた上で、実地で作業経験を積んでから資格が取れる仕組みにしていたのだ。当然このインターン期間の検査員候補が検査を行えば、検査員の印鑑を借りて捺印することになる。そしてスバルはそのやり方の丁寧さにむしろ全幅の信頼を置いていた。日産の問題を受け、国交省に自社のやり方を説明して、初めて「違法扱いになる」と認識したのだ。
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