「ひかり」を再評価、ロマンスカーの心地よさ…… 2018年に乗ったイチオシ列車と、2019年期待の鉄道:杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(1/6 ページ)
2018年も全国各地の列車に乗った。観光列車には「つくる手間」をかけることの価値を感じ、新幹線では「ひかり」の良さをあらためて実感、新型の特急列車には期待感を持った。19年も乗りたい列車がめじろ押し。どんな発見があるだろうか。
会社員からフリーライターに転じて22年。オンライン鉄道ニュースメディアの先駆けとして記事を書き始めて10年の節目を迎えた。2018年も公私ともにたくさんの列車に乗ったり乗せていただいたりした。雑誌の連載企画で毎月1回は遠征に出たほか、試乗会などに招待してもらった列車もある。こうした仕事のおかげで、個人的に興味のある場所に出掛けていき、その旅について書く仕事をいただける。全て、記事を読んでくださるあなたのおかげで成り立っている。今回は感謝を込めて、18年に印象深かった鉄道を紹介したい。
観光列車……「豪華さ」より「つくる手間」に価値がある
観光列車を「乗ること自体が観光目的となる列車」と定義すると、18年に私が乗った観光列車は以下の14本。どれも創意工夫があり、楽しい列車ばかりだった。
この中で、ビジネスモデルとして特筆すべき列車は岳南電車の「夜景電車」だ。おおむね月2回、吉原〜岳南江尾間を往復する。2両編成の定期列車のうち、後部車両の照明を消し、車窓案内人が添乗する。これだけ。運行に当たって新たな設備投資はないし、むしろ照明を消すだけ定期列車よりコストダウンだ。
ただし、案内人として車掌が乗務するため、ワンマン運転より人件費はかかる。乗車料金は運賃のみで追加料金はない。乗客のほとんどは割安の1日乗車券を使う。見どころはライトアップされた製紙工場地帯の通り抜け。また、闇夜に灯る無人駅の照明などをムーディーに演出する。工場夜景ファンが楽しめる唯一の列車だ。
北海道の第三セクター、道南いさりび鉄道は観光列車「ながまれ海峡号」を成功させて「日本一貧乏な観光列車」と宣伝しているけれど、かの列車は食事サービスもあるし車内もテーブルを設置するなど改造費をかけているし飾りもある。それに比べて岳南電車の夜景電車は一切の飾りがない。日本一貧乏な観光列車より低コストだ。
しかし、だからといって手を抜いているわけではない。添乗する乗務員は夜景を勉強し「夜景鑑定士」の資格を持っている。車窓から見える全ての明かりの正体を知っているし、月明かりのある夜を選んで運行し、夜空にそびえる富士山を見せてくれる。お金をかけなくても、ちゃんと手間をかければ楽しい列車をつくれる。この「手間をかける」という部分、昨今のビジネスには欠けているような気がする。何とかして手軽に稼ごうという風潮へのアンチテーゼだ。
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