平成17年4月1日以後開始する事業年度から減損会計が導入される。新たに適用される固定資産の減損会計について押さえておこう。
当社は、本社以外に2つの工場を持つ電子基盤製作会社です。減損会計の導入が決定したということを聞き、その対応策を検討中です。 2工場のうち、一つは、創業当時から所有する工場であるため、工場敷地に大きな含み損はありませんが、工場の脇に今では使用されていない空き地部分があります。 一方、もう一つの工場は、バブル期直前に購入した土地に建設された研究所兼工場であるため、土地購入価額と路線価との比較では、多額の含み損を抱えています。 当期から減損会計が強制適用となりますが、当社の決算にどのような影響があるのでしょうか。また、減損会計導入に当たって、何を実施しておけばいいか、併せてご教示ください。
減損会計とは、収益性の低下により投資額を回収する見込みが立たなくなった資産の帳簿価額を、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように減額する会計です。これまで土地や建物といった固定資産に対する減損会計のルールはなく、平成17年4月1日以後開始する事業年度から導入されます。新たに適用される固定資産の減損会計は、企業が使用する目的で所有する固定資産、具体的には、有形固定資産、無形固定資産および投資不動産などの資産が対象となります。
減損の対象とされた資産については、帳簿価額を減額するとともに、これを損益計算書上、損失として計上しなくてはなりません。減損の対象となった場合には、従来は、決算書に反映されなかった含み損が、利益のマイナス要因として顕在化することになり、会社の業績に直接影響することになります。
減損処理の要否の判定は、何段階かのステップを経て行われます。その際に、減損処理の要否の判定対象となっている固定資産から将来得られるキャッシュフローを見積もる必要があり、この作業をスムーズに行うための準備をしておく必要があるでしょう。
解説 |
会社は、企業活動を通して、さまざまな資産を使用し収益を獲得しています。これらの資産のうち自らが所有するものについては、貸借対照表上、資産として計上することになりますが、資産の劣下や時価の下落などの何らかの理由により、その資産価値が減少する場合があります。
減損とは、このように収益性の低下により投資額を回収する見込みが立たなくなった資産について、その帳簿価額を、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように減額する会計です。
減損は、有価証券や販売用不動産については会計ルールとしてすでに導入されていましたが、これまで土地や建物といった固定資産に対する減損会計のルールはなく、平成17年4月1日以後開始する事業年度から導入されます。3月決算の場合には、平成18年3月期から適用となります。早期適用も平成16年3月31日から平成17年3月30日までに終了する事業年度から認められており、既に早期適用している企業もあります。固定資産の減損会計は、企業が使用する目的で所有する固定資産、具体的には、有形固定資産、無形固定資産および投資不動産が対象となります。
減損の対象となった固定資産は、減損による損失を損益計算書に計上するとともに、帳簿価額を切り下げます。
(仕訳例)遊休土地を調査したところ、減損の対象となることが判明したため、帳簿価額を切り下げることとした。
(借方)減損損失 | 60,000 |
(貸方)土地 | 60,000 |
前記の仕訳で分かるように、減損会計の導入前は会計上処理されなかった「含み損」が、損益計算書上「減損損失」として表面化する点で会社決算ヘ与える影響は大きいとされています。
減損会計の新しいルールである「減損会計基準」では、会社が保有する固定資産のすべてについて減損損失の要否を判定することは要求していません。
第1ステップとして減損が生じている可能性のある固定資産の把握を行います。具体的には「減損の兆候」がある資産または資産グループを把握することが必要となります。
などが、「減損の兆候」となります。
第2ステップとして、「減損の兆候」があると認められた資産または資産グループについて、減損の存在が相当程度確実かどうかの調査を行います。
具体的には、調査の対象となる資産または資産グループが生み出す将来キャッシュフローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合に減損の存在が相当程度確実であると判断し、減損損失を認識することが必要となります。
第3ステップとして、減損損失を認識することが必要と判断された資産または資産グループの帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上します。
ここで、回収可能価額とは、資産または資産グループの売却によって得られる「正味売却価額」と使用し続けることによって得られる「使用価値」のいずれか高い方の金額をいいます。いずれか高い方の金額を算定し、当該金額を回収可能価額として帳簿価額を減額することで、減損損失が計上されることになります。
減損会計の導入に先立ち、以下の検討を進めておくことが重要となります。
ワンポイント:減損会計とキャッシュフロー |
「キャッシュフロー経営の時代」「キャッシュフロー計算書」などで馴染みとなったキャッシュフローですが、減損会計においても重要な役割を果たします。解説にもあるとおり、減損の兆侯の有無を調査する場合や、減損の対象となった資産の回収可能価額を見積もる際にキャッシュフローが用いられます。
キャッシュフローは文字通り、資金の流れを意味しますが、減損会計では、資産あるいは資産グループからどのくらいの純収入が獲得できるかが問題となります。このキャッシュフローの予測は、対象となっている資産あるいは資産グループの使用状況により異なります。
設例のような遊休土地が、もし、駐車場として賃貸されている場合には、駐車場収入から維持管理コストや固定資産税といった支出を控除した金額をもってキャッシュフローと考えることもできますし、空き地状態であれば、土地の売却見積額から処分費用を控除した金額がキャッシュフローとなります。
また、「使用価値」を求める際には、将来キャッシュフローを現在価値に修正する必要があります。例えば、現在の100万円は、利率2%と仮定すると1年後には102万円となっていますが、これは、1年後の102万円は現在の100万円と同じ価値と考えることができます。「使用価値」を求めるステップでは、この2%の利率に相当する「割引率」を使用して、将来キャッシュフローを現在価値に割り引く作業が行われます。 では、割引率をどの水準にしたら良いかが問題となりますが、さまざまな考え方があり、これといった決め手はありません。
このように、キャッシュフローを算出するためには、さまざまな見積りや仮定を用いた計算を行わざるを得ず、これが実務を煩雑にしてしまうのではないかと心配もされています。
こういった実務対応のために企業会計基準委員会から適用指針が公表されておりますので、十分に留意することが必要です。
●参考法令など
固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書
固定資産の減損に係る会計基準
固定資産の減損に係る会計基準注解
固定資産の現損に係る会計基準の適用指針
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