オラクル、SAP、マイクロソフトも追いかけるビジネスモデルSaaS――忍び寄る情報サービス産業の構造変化 第1回(1/2 ページ)

企業向けITの世界を中心に話題の「SaaS」。ITベンダーのビジネスモデルの新潮流としても注目されている。そのトレンドをリードする企業の取り組みを探った――。

» 2007年01月17日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト編集部]

 最近、「SaaS」(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)というキーワードが、企業向けITの世界を中心に話題になっている。直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」で、ローカルにインストールするソフトウェアを販売するのではなく、サーバーにあるソフトウェアをネットワーク経由で利用してもらい、演算結果をサービスとして提供することを意味する。マイクロソフトのメールソフト「Outlook」に対する、同社のウェブメール「Hotmail」はその一例である。

 Web2.0がソフトウェアとインターネットを起点に、生活者や企業を問わず、広くITにかかわる人間すべてを対象とした概念であるのに対して、SaaSは現時点ではITベンダー、とりわけビジネス向けを中心に、そのビジネスモデルの新しい潮流として注目されている。

Web2.0化する先駆者

 SaaSを代表するベンダーとしてまず名前があがるのが、米セールスフォース・ドットコムである。1999年にオラクルからスピンアウトする形でマーク・ベニオフ氏が設立した企業で、社名が表す通り営業支援ツールをWebサービスとして企業向けに提供している。

 事業規模は四半期(注1)売上高で約1.2億ドルで、ソフトウェアベンダーのオラクルやSAP、あるいはインターネットサービスのグーグルなどと比べると、およそ10分の1程度である。とはいえ、同社の業績は急激に伸び続けている。サービスを導入する企業数や1社あたりの利用者数も急増している。

 彼らのサービスは、CRMソフトウェアのASPサービスとその導入や運用に関連するサービス、そして2006年1月に正式スタートしたアプリケーションプラットフォームサービス「AppExchange」から成る。創業時からの事業である前者がいわゆるSaaSの先駆けであるとすれば、後者のプラットフォームサービスはそのWeb2.0的進化系といえる。これを中心とする同社の最近の戦略では、マッシュアップをはじめとするWeb2.0の重要な概念がふんだんに盛り込まれており、今後、中長期的視点で考えた場合、それがITベンダーのビジネスモデルに示唆するところは極めて大きい。

 事業報告書によると、これらのサービスはすべて米国内にあるデータセンター上に構築されたソフトウェア群から提供されているが、サービスプラットフォームは自社のものではなく、エクイニクスのホスティングサービスを利用したものだという。この点は興味深いところでもある。

やや鈍い大手の対応

 こうした状況に、既存の大手ソフトウェアベンダーもSaaSへの対応に着手している。

 データベースとアプリケーションサーバーを主力とするオラクルは、「オラクル・オン・デマンド」を掲げてオンデマンド型サービスへの注力をアピールするとともに、CRMソフト大手のシーベル買収などを通じて、セールスフォースやSAPなどへの対抗を明確に打ち出している。同社のオンデマンド部門の四半期(注2)売上高は約1.3億ドル。全社売上の3%程度で、セールスフォースの売上をわずかに上回る数字だ。

 ERP大手のSAPも、主力パッケージ「mySAP」でオンデマンド版の提供を開始した。パッケージ版と同等のユーザーインタフェースやデータ構造を持つサービスで「顧客のニーズに応じた選択を提供していく」としているものの、パッケージ版への誘導を意図している側面が強いように思える。

(注1) 2006年5-7月期。同年8-10月期で約1.3億ドル
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(注2) 2006年6-8月期
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