SAP改革をトップに説き伏せる方法


 1974年創業のアメニティーズは、長野県を中心に17店舗のパチンコ店を展開、ほかにもシネマコンプレックスやカラオケボックスなどのアミューズメント施設を運営している。主力であるパチンコ店のビジネスは拡大してきたものの、大手パチンコチェーンの進出などもあり、経営環境は楽観できるものではなかった。

 現在、パチンコ店で利用されている遊技台は、デジタル化が進んだこともあり非常に高価だ。1台1台を管理し、確実に利益を確保しなくてはならない。対象は遊技台という機械ではあるが、この管理はいわば労働分配率と同だ。個別に掛かるコストを低減し、利益を増やし、遊技台の「労働生産性」を高める工夫が必要になる。

 「せっかくいい台を購入したのに、店舗によっては十分に活用できないこともある。台を個別に管理し、いかに顧客の遊びをサポートしていくかがカギ」

sap_03_01.jpg アメニティーズ 常務取締役
久保田雅一郎氏

 アメニティーズ 常務取締役の久保田雅一郎氏は、他社との競争に勝利するためにも「個々の遊技台という細かい単位でビジネスの流れを管理する必要があった」と指摘する。しかしながら、当時の同社のITの仕組みはバラバラだったため、実現は容易ではなかった。

 店舗には遊技台情報を管理するホールコンピュータや景品を管理するPOSシステムがあり、本部には財務会計や人事給与のシステムがある。個別に稼働していたが、全体としては連携が取れていなかった。そのため、ビジネス上の判断をしようとしても、各システムから抽出したデータを持ち寄り、突き合わせて整合性をとるのに手間が掛かっていた。正確なデータを基にタイムリーな意志決定ができる状況ではなかったのだ。

 経営層の判断だけでなく、各店舗での情報共有もうまくいっていなかった。ホールコンピュータには、遊技台に関する膨大なデータが日々蓄積されるが、自店については把握できても他店の状況は本部に足を運ばなければ分からない。つまり、蓄積されたデータが宝の持ち腐れになっていた。

 さらに、店舗には厳しい時間の制約もあった。営業終了後の限られた時間内に、台の釘調整などで稼働率や出玉、粗利を管理するが、店舗に遊技台が500台もあれば、1台の対処に掛けられる時間はせいぜい10から15秒程度しかないという。遊技台ごとに15種類くらいある指標(KPI)のどれを見て判断するのか。この作業にたいていの店長は疲弊してしまう。

 「各店舗の店長は、利益を出すためのさまざまな工夫をしているが、そのノウハウを店舗間で共有することができれば、さらに売り上げを伸ばすことができると考えた」(久保田氏)

 個別最適からシステムの全体最適化、柔軟な情報共有の仕組みの実現。適切な経営戦略、営業戦略を打ち出すためにも、新たなITの仕組みがアメニティーズには必要だった。

ERPの導入で経営幹部は資料作りから本来の業務に注力できる

 これらの問題の解決方法として検討されたのがERPの導入だった。

 「従来のシステムのバラバラな状況は、いわば積み木型だった。個々のパーツは完成しているが、それをどう組み上げるかは、自分次第だった。反対にERPはパズル型のシステムだ。何を作るかが最初から明確であり、必要なピースを埋めていけば目的が達成できる」(久保田氏)

 アメニティーズのビジネスの流れは、まずに機械を購入して社内に分配し、機械を利用するために認可を受ける。次のステップでは機械の稼働率を予測し、粗利を計算して販売計画やマーケティングを実践する。さらに、各店舗で従業員が接客サービスを行うことで、最終的な実利益が生まれるというもの。

 許認可申請の部分を除き、機械や景品の在庫、購買管理、人事管理、財務管理、さらに経営管理のためのデータウェアハウスというビジネスの流れに沿って、アメニティーズではERPの各ピースを当てはめることができた。

 ERPの導入により、1つの大きな箱にすべてのシステムの情報が集約されるようになる。その箱には正しい情報だけが格納されるので、システムごとにデータの整合性をとる必要はない。データが一元管理されていれば、部門や店舗などから柔軟に情報を参照する機能も実装しやすく、情報共有も容易になるという。

 ERPパッケージとしてアメニティーズが採用したのがSAP R/3だった。中堅規模の同社にとっては、決して安い買い物ではない。では、なぜSAPを選択したのか。

 久保田氏にとっても「SAPは高いというイメージがあり、最初はハードルが高いと感じた」という。しかし「SAPを使いこなせるか不安もあったが、SAP自身が中堅中小企業向けの取り組みを強化しているとも感じていた」という。セミナーに参加するなど積極的に情報を収集した。その後、SAPの営業担当者から連絡があり、SAP R/3について詳細な情報を得る機会を得た。

 「営業担当者から話を聞くと、当初抱いていた“SAPは高価で使いこなせない”というイメージは誤解だったことが分かった。実はわれわれとSAPの想定する金額の差はそれほど大きくなかった」(久保田氏)

 想像よりも差は小さい――。久保田氏はSAPでも十分行けると判断した。しかし、それなりの費用が発生することなので、導入には経営層の統一した決断が必要となる。これに対し久保田氏は「定量的な導入効果だけでなく、SAPの導入は経営幹部が本来の仕事をするための仕組みだ」と説明したという。

 従来のバラバラのシステムでは、経営幹部は自分の担当範囲の数字の整合性をとり経営会議の資料を作ることに手間と時間がかかる。半ば資料作りが自らの仕事になっていた。SAPを導入すればそういった手間はなくなり、意志決定という経営幹部の本来の業務に注力できるようになる。

 言い換えると、SAPを導入したくないという立場をとることは、本来の仕事から逃げることを意味する。経営幹部としては安易に反対するわけにはいかないという論理が働くわけだ。結果として、SAP導入の社長決済がおりたという。

導入したSAPを営業現場が使いこなす

 SAPの導入には当初営業部門の抵抗もあったという。従来は、売り上げの計上を任されている営業部門が主体になってさまざまなことを進めていた。SAPの導入により、システムが主導する形に全社の仕組みが変わることになる。これは営業部門としては「面白くない」ということになる。そのため「SAPで何ができるかお手並み拝見」といった他人事のような雰囲気が営業部門にはあった。そんな中で営業部門にヒアリングすると、200種類もの帳票が必要という希望が出てきた。

 だが、これを40種類程度に絞り込み、試験的にSAPの利用を開始する。ふたを開けてみると、営業部門がSAPの機能を最も使うようになった。データがシステムに正しく蓄積されれば、日々の営業活動にさまざまな情報を最大限に活用できることが分かったのだ。営業本部では、いまではSAP BWを活用して分析するようになった。

 ホールコンピュータから各遊技台の出玉や確率、稼働率、粗利率といった主要なKPI情報もSAPには集められた。各店舗から、SAP BWを利用しそれらを容易に参照可能となったのだ。この情報共有で、他店舗のやり方を参考にできるようになり、店舗間の垣根が低くなってきた。

SAPはM&Aの特効薬にもなる

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 SAPの導入効果は、営業部門以外でもすぐに現れた。例えば、財務会計の活用で、月次の会計処理が20日間も短縮できた。従来の経営会議では、各経営幹部が持ち寄った資料の説明が中心であり、それだけで2時間を超えた。現在は会議にかかる時間は短縮しているという。まだ意志決定だけを行う場にまではなっていないが、SAPから得られる正確な管理会計情報のおかげで、経営会議の場では本来の経営幹部の業務遂行の姿に徐々に変化している。

 SAPの導入効果は意外なところにも現れた。アメニティーズでは、2006年に旧ダイエー系のパチンコチェーンのパンドラを買収し、グループ会社化している。この際、入札に必要な会計資料作りにSAPの存在が威力を発揮した。パンドラを子会社化した場合にどのような将来予測となるのか、シナジー効果を図るためにパンドラのデータをSAPに入力し、BWを使って将来予測の資料も容易に作成できたのだ。

 「SAPはM&Aの特効薬だ」と久保田氏は言う。SAPの帳票を見やすい形で加工し必要な会計資料が容易に作れ、BWで将来予測資料も容易に作成できた。そのおかげで、M&Aの過程でもっとも大変だった資金調達スキーム構成のところに、時間と手間をかけることができたという。子会社化後は、両社の経営を融合し、両社の強みが発揮できる経営を目指す。

 「流通業のノウハウを持つパンドラにはチェーンストア理論があり、営業利益をアップさせることが得意だ。一方アメニティーズには遊技台を個別に管理する売り上げ、粗利をアップさせるノウハウがある。SAP BWを利用し、アミューズで培った粗利を上昇させるノウハウをパンドラに提供できると考えている」(久保田氏)

 SAPを導入した過程で「自分たちは成長できた」と久保田氏は話す。ただし、そのためには導入の実作業を担当するシステムインテグレーターと徹底的に話し合う必要があるという。ベンダーはシステムを中心に考えるが「自分たちはビジネスとして何をどう実現できるかが重要」(同氏)。お互いに納得するにはけんかするくらいのつもりで真剣に向き合わなければならない。

 今後アメニティーズでは、SAPが買収したビジネスインテリジェンスのソフトウェアベンダーであるBusiness Objectsも活用する予定という。それにより、経営の意志決定サイクルをより速くする。単に速く回すだけでなく、限られた時間内でどれだけ確かな情報を利用し、判断できるかが重要になる。

 1つの方策が経営ダッシュボードの提供だ。「SAPは経営のスピードアップと品質の改善の両面で貢献してくれる」と久保田氏は指摘した。

株式会社アメニティーズ

パチンコホール、ボウリング場、映画館、レストランなど、長野県を中心に展開する総合エンタテイメント企業。
昭和49年にオープンした東部100万ドル(現在の『100万ドル本店』)を皮切りにパチンコ店を中心にボウリング場やレストラン、シネマ等を経営する総合エンタテイメント企業として現在に至る。
www.amenities.co.jp




提供:SAPジャパン株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年7月31日