インタビュー
» 2010年07月29日 11時30分 UPDATE

オルタナティブな生き方 坂本史郎さん(苦闘編):どん底の日々からわたしを救った朝の時間 (2/3)

[聞き手:谷川耕一、鈴木麻紀,ITmedia]

内観による変化

 今思えば、ビジネスがうまくいかなかった理由の1つは、経営者3人による意志決定の難しさでした。代表はわたしでしたが、経営の権利は3人等分です。3人の意見が分かれるとなかなか前に進まないし、お互いの間もぎくしゃくしてくる。そうこうしているうちに1人が体調を崩し離脱、2005年1月にもう1人の経営者も退き、わたしの判断で会社の方向性を決める体制になりました。わたしは1人になったことで、人に頼ることをやめました。結果的にはこれで、会社がいい方向に進むようになります。

坂本史郎さん 「1人になったことで、人に頼ることをやめました」坂本史郎さん (写真撮影:amanaimages

 わたし1人になった後、2006年3月期に、創業以来始めて20万円の営業利益が出ました。まだまだ大きな借金を抱えてはいましたが、この瞬間が、会社が変わるポイントだったことは確かです。

 実は、物事に前向きに取り組むようになったきっかけは、もう少し前にありました。2003年12月、CACHATTOをリリースして1年くらい経ったころのことです。製品はなかなか売れず、副社長とわたしは頻繁に意見がぶつかり、社内の雰囲気は最悪でした。そんな状況なのに、その副社長が突然休んでしまったのです。

 10日ほどして彼は、まったくの別人になって帰ってきました。「今まで迷惑をかけて、悪かったなあ」と言いだし、それまでのけんか腰が、嘘のようになくなっています。不思議に思って尋ねると、休みの間に『内観』に行ってきたと言うのです。あの彼がこんなに変わるのならばと思い、わたしも内観に行くことにしました。

 内観は自身の内なる精神状態を観察するもので、その方法はいろいろあるようです。わたしが行ったのは、年齢を3歳ずつに区切り、その期間ごとに母親など身近な人について考えるものでした。ポイントは、「わたしに対し何をしてくれたか」、それに対して「わたしは何を返したのか」、そして、「どんな迷惑をかけたか」の3つについてだけ考えるということです。考えてはいけないのが、「何をしてくれなかったか」「どんな迷惑をかけられたか」というマイナスなこと。実はこちらのほうが、覚えていやすいものですが。

 これを1人でじっくり考えると、自分の中のネガティブな部分が精算されます。ときどき自分の内観したことを聞いてもらい、間違っているとそれを指摘し正してもらう。3日ほどすると、自分の中でプラスマイナスのバランスが取れてきます。そうすると、自分は大事なものに囲まれ生きており、今までも常に助けられ、これからも何も悲観する必要はないことに気付くのです。

 自分は恵まれた境遇にあったんだなあ、と気付くと、そこからどんどん、良い思い出が蘇ってきます。そして、これまで多くの人に助けられてきたのに、自分はなんにも返してないことに気付きます。1週間集中して内観を行うと、気持ちがすっきりしました。たっぷり眠って、朝気持ちよく目覚めた時のような感覚です。

朝メールがきっかけに

 この内観を経験したあとから始めたのが、『朝メール』です。生活を朝型にシフトして始発で会社に出勤し、社員に対して内観するようにしたのです。毎日1人に10分ほどの時間をかけ、一人ひとりの社員について考えます。具体的には、毎朝6時までに前日の日報をメールで提出してもらい、それにコメントを添えて返します。返事は個人宛てではなく、全社員宛てのメールで、すべてオープンにして返します。

 これで、誰がどんなことをしていて、それに対してわたしがどういうコメントやアドバイスを返したかが全社員に共有できます。一人ひとりのことをじっくり考えてコメントを返すので、わたしが社員の何を見て、どう考えているかが伝わります。

 たとえいいものを作れたとしても、わたし1人だけではそれを売る力がない。社員一人ひとりの良い面を引き出せれば、おのずと事業は良くなります。1人のスーパーマンが活躍するのではなく、会社全体の力がいい方向に向かって初めて会社は成功する。そのためには会社は安心して仕事のできる場所でなければなりません。それにはどうしたらいいか。朝メールは、そのための極めて効果的なツールなのです。

 朝メールを始めてから、いいじゃんネットの事業は徐々に良い方向に向かい、利益が出るようになりました。とはいえ、ビジネスは精神論だけでうまくいくものではありません。企業の経営は科学的な思考の元に進めるべきものです。方向性や、何をどれだけ手間をかけて行うべきか、論理的な議論が必要です。膨大な議論をした上で、会社の方向性をきちんと全体で共有する。それを共有する1つの方法として、朝メールがあるのです。ただ実際には、メールだけで全社員をきちんと把握できるわけではないので、月に1度は10〜20分程度の個人面談も行っています。

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