情報通信技術はグローバル競争を勝ち抜く手段に、日本がとるべき戦略とはSFC Open Research Forum 2010

グローバル化の波に直面する日本が成長を維持していくためには、海外進出が不可欠といわれる。厳しい競争を勝ち抜く上で、情報通信ネットワークが果たす役割はより大きなものとなった。国際舞台で日本はどのような立場を築いていくべきか。その展望をNTTコミュニケーションズの有馬社長とSFCの村井教授が語る。

» 2010年11月15日 10時00分 公開
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 「失われた10年」と言われるように、今なお日本経済は長い停滞期から脱出できないでいる。日本企業がそのような状況から脱出を図るには、海外市場への積極的な進出が不可欠となった。日本企業がグローバル展開する上で、ビジネスの基盤として大きな役割を果たすのが情報通信ネットワークである。

 NTTコミュニケーションズと慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は、20年にわたって情報通信ネットワークの発展に向けた研究に共同で取り組む。11月22日(月)、23日(火)には、SFC研究所が主催する「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2010」(ORF2010)が開催され、情報通信ネットワークに関する最先端の研究発表や講演が行われる。

 グローバル化の波に直面する日本がさらなる成長を遂げるためは、情報通信ネットワークをどのような形でしていくべきか。NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長の有馬彰氏と、慶應義塾大学 環境情報学部長兼教授の村井純氏が、ORF2010でその展望を語り合う。

究極の要求をネットワークに突き付けるグローバルビジネス

有馬氏 NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 有馬彰氏

 村井氏は、今の日本の情報通信分野が置かれている状況について、「非常に重要な時期にある」と指摘する。その背景には、2008年の金融危機を契機にした景気後退の波から世界各国が抜け出そうとしている中で、日本は今なお明確なビジョンや戦略を描くことができないままでいるからだ。

 「例えば、先進諸国はアフリカに目を向け始めた。米国は医療や医薬の分野で大学機関を巻き込んだネットワークをアフリカとの間に構築しつつある。産業の発展を図る国家戦略に情報通信ネットワークを重要な手段として位置付けている」(村井氏)

 産業界が情報通信ネットワークに寄せる期待は非常に大きい。その究極の期待が「遅延なき世界の実現」である。有馬氏は、その一例として金融業界が通信会社に求める期待を次のように紹介している。

 「香港とシンガポールを視察したところ、当地の金融機関や証券取引所から可能な限り遅延のない通信環境を実現してほしいと求められた。政府もまるで企業のような展開で、同地が通信のハブとなるための政策を積極的に展開している」

 有馬氏によれば、彼らの具体的に求めるものとは「遅延ゼロのネットワーク」であるという。高度なシステムで実行される金融取引の世界では、わずか数ミリ秒の遅延によって巨額の損失が生まれるシーンが珍しくない。遅延を極力回避するには、拠点間を最短距離で結ぶ高信頼のネットワークが不可欠であり、アジア各国ではその実現を政府が後押しする格好である。

 村井氏は、世界がこのような戦略を展開している中で、日本は有利な立場にあるとの見方を示す。広大なアジア大陸の東端に位置する日本には、ネットワークのハブを担える地理的な優位性がある。アジアと米国、欧州を最短距離でつなぐネットワークの中心に日本がなるという考え方だ。

 だが、実際にはネットワークが通過する国や地域の情勢によって、最短距離でつなぐという目的を達成していくのは容易ではない。有馬氏と村井氏は、日本経済を支える企業が情報通信ネットワークを活用できるようになるためには、政府の支援が不可欠だと見る。グローバルな情報通信ネットワークを実現していくために、産業界と政府はどのような連携をしていくべきか。ORF 2010で両氏はその可能性を模索したいと話している。

「ユビキタス」の実現で成否を握るクラウドビジネス

村井氏 慶應義塾大学 環境情報学部長兼教授 村井純氏

 情報通信ネットワークを取り巻く環境変化の1つが、「クラウドコンピューティング」の台頭だ。インターネットを介して、ユーザーが必要な時に必要なコンピュータの処理能力やアプリケーションを自由に、どのような場所でも使えるという「ユビキタス」を実現する手段として期待されている。

 特に企業ITの市場では、ソフトウェアの機能を提供するSaaS(Software as a Service)や、コンピュータの処理能力を提供するPaaS(Platform as a Service)、コンピュータインフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)のサービスがこの数年の間に数多く登場した。

 現在は、まさにクラウド全盛に向かって進みつつあるような状況だが、クラウドビジネスを成功させるためにモデルを描き切れないという課題を抱えるサービス事業者が少なくない。NTTコミュニケーションズは、「その可能性を模索している」(有馬氏)といい、ネットワークを保有する強みを生かし、「BizCITY」の名称でSaaS、PaaS、IaaSのすべてのクラウドサービスを展開している。

 村井氏は、クラウドコンピューティングで語られるメリットがユーザーに浸透すれば、企業の競争力が大いに高まるだろうと期待する。そのためには、サービス事業者にクラウドビジネスを成功に導くモデルを確立することが求められると指摘している。

 ブロードバンドの普及により、通信を空気や水のように自由に使える環境が実現したものの、通信事業者がそこで収益を上げることが難しくなりつつある。「クラウドビジネスは、高品質のリソースを持つところが勝利する世界だ」と村井氏。サービス事業者が継続的に投資していける収益モデルをどのように構築すべきか。ORF 2010では、両氏がその方法を解き明かしてくれそうだ。

グローバル競争を勝ち抜く人材

 企業がグローバル競争を勝ち抜く上では、情報通信ネットワークの力を最大限に引き出すことができる人材も不可欠だ。有馬氏と村井氏は、情報化社会を担う人材像や企業の人材戦略についてもORF 2010で方向性を導き出したいとしている。

 世界の市場では、かつて日本企業がその存在感を発揮していたが、今では韓国などのグローバル企業が台頭し、日本企業に代わってその存在感を強めつつある。村井氏は、こうした企業では現地に進出するだけでなく、社員が現地のコミュニティーに深く溶け込んでビジネスを展開している点に強みがあると指摘する。日本企業はそこまでできていないという。

 NTTコミュニケーションズは、海外展開を開始してから10年近くが経ち、現在では約5000人の社員が世界各地で同社の事業を展開している。しかし有馬氏は、「現地に行くと、まだまだ当社の存在が十分に認知されていないという声が上がる」と話す。同社のグローバルビジネスをさらに拡大させるには、村井氏が指摘するような、現地のコミュニティーと強い信頼関係を築くことができる人材を確保できるかが鍵を握るようだ。

 グローバルに通用する人材を育成するために、大学をはじめとする教育機関が果たす役割は大きい。教育の現場では国際競争力のある人材をどのように育てるのだろうか。村井氏によれば、SFCでは語学のみならず、多彩な文化を柔軟に受け入れることができる人材の育成に力を注ぎ、実際に企業との交流を通じて、グローバルビジネスに必要な感性を磨いてもらうといったさまざまな取り組みを進めているという。

 人材を受け入れる企業はどのように見ているのか。有馬氏は、「そのようなグローバル人材を数多く受け入れたい」との意向を示す。さらには、グローバルな日本企業で働くことに意義を感じてもらえるような企業風土を作り上げていきたいと話している。有馬氏は、従来の日本企業では想像できないような新しい人材戦略を胸のうちに秘めているようである。

有馬氏・村井氏

 今後グローバル化がますます加速していく中で、日本は世界に向けてどのようなビジョンを提示し、国際社会に貢献していくべきか。情報通信分野のキーマンがその展望を語るORF 2010に注目してみたい。

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提供:慶應義塾大学SFC研究所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2010年11月28日