産学連携が実現する情報通信の明るい未来

情報通信サービスを安心できる社会基盤に発展していく舞台裏では、産学連携が重要な役割を果たしている。20年近くに及ぶ慶應義塾大学SFCとNTTコミュニケーションズの連携もその1つだ。両者の活動の原動力とは何かを聞いた。

» 2009年11月11日 10時00分 公開
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 インターネットに代表される情報通信サービスは、いまや日常生活に欠かせない重要な社会基盤となりつつある。誰もが時間や場所といった制約に捉われることなく、必要な情報へ自由自在にアクセスできる環境を実現するために、企業と大学による産学連携が大きな役割を果たしてきた。

 20年近い歴史を持つ慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のSFC研究所とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の産学連携では、インターネット黎明期から情報通信サービスを信頼できる基盤へと発展させるためのさまざまな課題に挑戦し続けてきた。今回、SFC環境情報学部の中村修教授と同校卒業生でNTTコム第二法人営業本部u-Japan推進部の安田歩さん(2002年卒)、三川荘子さん(2008年卒)に、産学連携における人のつながりやキャリアパス、そして、緊急テーマであるIPv4枯渇問題への取り組みを語ってもらった。

 SFC研究所は、11月23日(月・祝)と24日(火)の両日に六本木アカデミーヒルズ40(六本木ヒルズ40階)において「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2009(ORF2009)」を開催する。ORFはSFCの先端研究や産学連携の活動に直接触れられる貴重な場で、両者による最新の成果も紹介される予定だ。

課題解決へ挑むスクラム

中村修教授

ITmedia 産学連携は期間や予算などの制約で終了してしまうケースが多いのですが、SFCとNTTコムは長期に及ぶ関係をどのようにして構築しているのでしょうか。

中村 両者が「情報通信の世界をより良くしていきたい」という共通認識を持ち続けているからだと思います。産学連携ではそれぞれの立場で果たすべき役割に忠実であることが大事です。SFCのような研究機関は中立的な立場としてプロジェクトの環境や場所を提供することが使命です。NTTコムのような企業にはプロジェクトを実際のビジネスや社会に還元していく役割があるわけです。SFCとNTTコムの場合はお互いがそれぞれの役割に徹してスクラムを組んでいることが特徴でしょう。その結果として、「1+1」を2ではなく3にしていけるような関係を築いているのだと思います。

ITmedia 個別のプロジェクトというだけでなく、より大きな目標に向かうための関係を持っているということでしょうか。SFCの学生もそうした関係を意識しているのでしょうか。

中村 慶應義塾大学とNTTは2006年から共同研究に関する包括的な契約を結んでいますが、SFCとNTTコムは2000年から共同研究契約など、それ以前から多くのプロジェクトを通じて人の交流が活発に行われていました。今では個々人のつながりが組織レベルにまで発展しているのでしょう。学生と社会人が一緒になって何かのテーマに向かうことは、SFCでは日常的なシーンです。実際に活動している人間は、学生や社会人といった立場を強く意識していないとは思いますが。(笑)

安田 学生時代からネットワークの運用をどう良くしていくかというテーマに取り組んでいます。在学時もNTTコム社員と一緒に研究していましたが、「企業の人」というよりは身近な先輩という感覚でした。卒業後もこの分野に携わりたいと思い、NTTコムに入社しましたが、最初の配属先は偶然にも携わりたいと思っていたOCNのネットワーク運用をする担当でした。NTTコムはSFCと「WIDEプロジェクト(※)」のもと、ネットワーク技術の共同研究を長年手がけていますが、OCNでの仕事を経験してはじめてSFCとNTTコムのつながりを肌で感じました。

中村 一般的には学生が社会人と一緒に何かをするという機会はとても少ないと思います。SFCは1年時から研究室に所属するため、早くから社会人と一緒に何かをするという機会に恵まれているかもしれません。

安田 多くの人と研究で一緒になりましたが、今の上司は在学時から知っていた方でした。

ITmedia 三川さんにも大学と企業のつながりを意識する出来事がありましたか。

三川 わたしは昨年まで慶應義塾大学で研究者として東南アジアの国々にe-ラーニング環境を提供するという研究を続けてきました。インターネットにつながっていれば教育プログラムを配信できるので、たくさんの若い人へ教育の機会を提供できるだろうと以前は考えていました。しかし、2005年にたまたま関わったNTTコムのインドネシアでのプロジェクトで、安定したインターネット回線を確保することがいかに大変かを体験しました。e-ラーニングを提供するには、相手のいる場所まで信頼できるネットワークをつなげることの必要性に改めて気付きました。

中村 企業の方々と一緒になって活動することによって、広い視野で物事を見ることができるようになるので、学生にとっては非常にありがたい環境だと思います。特にNTTコムとSFCは共同研究だけではなく、政府系のプロジェクトやビジネスなどさまざまな面での交流ができているのでなおさらだと思います。

安田 1つの研究テーマでも、企業は利益を上げなければならないので慎重にならざるを得ないのですが、大学にはそうした制約がないのでスピード感を持って一気に進めることができます。しかし、大学には研究成果をビジネスとして社会に還元するノウハウが少ないので、企業との継続的な協力が欠かせません。わたしの場合は、学生から社会人になっても1つのテーマに継続して携わりながら双方の立場を経験できたのが幸いです。

三川 わたしも企業とのプロジェクト体験を通じて研究領域を広げることができました。大学にいても研究は続けられますが、本当の意味で研究を社会に還元するにはやはりビジネスも知らなければならないと思い、ポスドクという研究職から転職しました。今も同じテーマについて大学と会社の双方の立場で関われるのはとても良いと思います。

ITmedia 研究以外にも大学と企業のつながりを感じることはありますか。

安田 入社してから一緒に仕事をする人に、在学中に名前を聞いたことがある人が多かったことです。わたしが直接会ったことがない人もいるのですが、NTTコムとSFCの産学連携に多くの人が関わっていて、人のつながりがあるのだと感じました。

※「WIDEプロジェクト」とは……慶應義塾大学の村井純教授らが中心になって1988年に設立された、企業や大学など100を超える団体が参加するインターネットに関する研究プロジェクト

目前に迫るIPv4アドレスの枯渇

安田歩さん

ITmedia 情報通信の分野が抱えるさまざまな課題の1つにIPv4アドレス枯渇問題があります。現状はいかがでしょうか。

中村 多くの専門家は2011年にも完全に枯渇するだろうと予測しています。これは非常に危機的な問題で、IPv4アドレスがいつか無くなるという認識を1990年代後半から誰もが持っていたはずなのですが、ここにきてようやく重い腰を上げ始めたといった状況です。

 対策としてIPv6への移行がありますが、単にIPv4をIPv6に置き換えれば済むという簡単な話ではありません。通信網としてのインターネットはもちろん、ネットワークにつながるすべてのシステムをIPv6にしなければならないのです。IPv4からIPv6へ移行できなければそのシステムはネットワークから取り残されるばかりか、ネットワークそのものもIPv4時代の広がりを維持できなくなります。

ITmedia SFCとしてこの問題へどのように取り組んでいますか。また、実際の移行にはどのような課題があるのでしょうか。

中村 SFCでは「WIDEプロジェクト」として、ほかの19団体および総務省と「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」を立ち上げています。IPv4アドレス枯渇のような問題には大学だけでなく、ベンダーやサービス事業者、通信事業者、業界団体、さらには政府といった広い枠組みで対応する必要があります。このタスクフォースの活動には、インターネットサービスプロバイダーだけでなく多方面からの参加を求めています。

安田 わたしは、このタスクフォースの中で接続性や運用に関する検証を担当していますが、特にネットワークや機器の相互接続性、運用を含めた関係者への啓発や教育が重要なテーマだと感じています。NTTコムは2001年に世界に先駆けた本格的なIPv6インターネット接続サービスの提供を始めていますが、NTTコムだけではIPv6のネットワークは実現しません。この問題を深く理解している人は強い危機感を持っていますが、そこまで危機感を持っていない人もいて、関係者の意識に大きな差が生じています。

三川荘子さん

三川 わたしはインターネットサービスプロバイダーやケーブルテレビ事業者、データセンターの関係者を対象に IPv6の啓発や教育を担当しています。特に地方の関係者は地理的な要因も影響して、IPv6についての理解を深められる場所が少ないという課題を抱えています。IPv6のネットワークを運用する立場ですが、IPv4について熟知していてもIPv6はよく分からないという方も多く、初歩から学ばなければならないケースをあります。

安田 特に企業にとって、この問題は経営層から現場まで組織全体で共有すべきテーマにしてほしいと考えています。現場レベルには同じ企業の立場から、ユーザーと通信事業者のどちらとしてでもNTTコムのノウハウを提供できます。しかし、経営層にはSFCのように中立的な立場でこの問題の重要性を伝えていただきたいと思います。

三川 このタスクフォースを通じて、関係者それぞれの立場に必要な情報や教育を提供できるようになりましたので、ぜひ活用していただきたいと思います。

先端研究から得られるキャリアパス

ITmedia 本日は、大学時代から産学連携という場でインターネットの研究に携わり、引き続き企業人としてインターネットの諸問題に携わっておられる三川さんと安田さんにお話をお聞きしたわけですけれども、最後に一言ずつお願いします。

三川 インターネットはそれ自身が社会基盤として機能しているものであり、より良い環境を提供し続けるためには学術・産業・政治といった各々の立場や国の垣根を越えて協力し続けることが必要不可欠です。例えばIPv4アドレス枯渇問題では海外のプロジェクト組織が日本の取り組みに注目しています。先日も台湾の組織が視察に訪れて、タスクフォースとこの問題について議論しました。また、タスクフォースの情報を米国企業に提供したこともあります。今後も産学連携・グローバルな連携を通したインターネットの発展に尽力したいです。

安田 わたしもネットワーク技術の分野に引き続きかかわっていきたいです。産学連携は新しいテーマに挑戦する環境と人のつながりを提供してくれる場所なので、わたしにとって最高のフィールドです。

SFCとNTTコムの産学連携では、大学と企業の人材がそれぞれの立場で参加し、時には大学と企業の間を行き来できる関係を構築している

中村 産学連携は、企業や大学といったさまざまな立場の人たちが共通の問題を一緒になって解決していくため枠組みだと思います。そして、このような枠組みで育った学生は、問題意識をしっかりもって動けることができる人材に育ってくれると思います。

 最近、産学連携がコンプライアンスなどの問題で、共同研究の目的をなるべく具体的に、かつ詳細決めてから連携をするといった方向になりつつあります。そのため共同研究でおこなわれる活動が小粒になる傾向になると感じています。しかし、NTTコムとSFCとの連携は、もちろん個別の共同研究ではしっかりと契約書を取り交わし、コンプライアンスに関わる諸問題も明確にしていますが、NTTと慶應義塾の包括的な共同研究契約があり、そして、NTTコムとSFCは幅広い産学連携の枠組みをもっているので、IPv4アドレス枯渇問題に見られるように大きなテーマで連携できているのだと思います。

 ぜひ、このような関係を引き続き維持して、社会にとっても、また学生にとっても素晴らしい成果を出し続けていきたいと思っています。

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提供:慶應義塾大学SFC研究所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2009年11月25日