国産スパコンの逆襲Weekly Memo

富士通とNECが先週、スーパーコンピュータの次世代製品に関する発表を行った。両社に共通する大きな狙いとは――。

» 2011年11月14日 08時05分 公開
[松岡功,ITmedia]

コストパフォーマンスが飛躍的に向上

 富士通が11月7日に発表したのは、最大23.2ペタFLOPS(毎秒2京3200兆回の浮動小数点演算数)の理論演算性能を実現可能なスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」。2012年1月から出荷を始める。

 新製品は、理化学研究所と共同開発中の世界最速スパコン「京(けい)」の技術を応用した商用機で、最上位機種は「京」の2倍以上 の性能を実現している。

 同社によると、プロセッサからミドルウェアまで自社開発し、高性能だけでなく、高拡張性、高信頼性を併せ持ち、かつ省電力性に優れているのが特長だ。構成は、顧客の要望に合わせて1ラック2.5テラFLOPSから1024ラック23.2ペタFLOPSまでの高いスケーラビリティを実現している。

 価格は1ラック5000万円程度から。マルチラックモデルについては個別見積もりだが、1ペタFLOPSあたり50〜70億円が目安になるという。金額だけをみると高価だが、ひと昔前のスパコンとコストパフォーマンスを比べると飛躍的に向上している。

 新製品のさらに詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここではその市場ターゲットに焦点を当てたい。

 同社の佐相秀幸 執行役員副社長は発表会見で、「私たちは今、地球環境やエネルギー、食料などさまざまな分野で困難な問題に直面している。そうした地球規模の問題を先送りすることなく解決していけるように、ICT企業としてできることを精一杯やるのが責務だと考えている」と強調した。

 そうした理念をもとに、山田昌彦テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長が、スパコン活用における変遷についてこう説明した。

 「スパコンの演算性能は1990年以降、10年ごとに1000倍向上し、今はペタFLOPS時代を迎えている。それによって、従来は学術研究での利用が中心だったスパコンが、企業などでもさまざまな分野のシミュレーション解析に幅広く使われるようになってきた。スパコンによるシミュレーション解析は、今や国家や企業の競争力を左右する重要な技術になるつつある。さらにその重要性は、今後ますます増していく」

 スパコンの真骨頂であるシミュレーション解析を、コストパフォーマンスに優れた製品によって幅広い用途に役立てていきたいというのが、同社の考えだ。

 左から富士通の佐相秀幸執行役員副社長、追永勇次 次世代テクニカルコンピューティング開発本部本部長、山田昌彦テクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長 左から富士通の佐相秀幸執行役員副社長、追永勇次 次世代テクニカルコンピューティング開発本部本部長、山田昌彦テクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長

グローバル競争に打って出る国産スパコン

 そうした考えは、富士通の新製品発表と同じ日に次世代スパコンの開発意向表明を行ったNECも同様のようだ。

 NECが開発を始めたのは、ベクトル型スパコン「SXシリーズ」の新モデル。CPUやネットワーク制御、I/O制御の全機能をワンチップ化するなどにより、現行機「SX-9」1台の1.6テラFLOPSと同等の演算性能を、10分の1の消費電力、5分の1の設置面積で実現するという。

 さらに、この構成で、現行機に比べ価格を5分の1の2000万円前後に設定する計画だ。そうなると、コストパフォーマンスの一段と優れたスパコンが登場することになるが、製品化は2013〜2014年と、あと1〜2年先の予定だ。

 NECの次世代機についても、詳細は関連記事等を参照いただくとして、富士通とNECの今回の動きがなぜ「国産スパコンの逆襲」なのか、を説明しよう。

 そのキーワードは「グローバル展開」である。両社とも今回発表した次世代スパコンを、積極的にグローバル展開していく構えだからだ。

 とくに富士通は、およそ10年ぶりにスパコン輸出を再開し、欧州をはじめ、新興国需要を取り込んでいく考え。スパコン市場でのシェアは現在2%、売り上げは約200億円だが、2015年にはそれぞれ10%、1000億円に引き上げたいとしている。

 一方、NECはSXシリーズをこれまで全世界で累計1400台以上販売してきたが、開発に着手した次世代機は一段と製品競争力を発揮できそうなことから、欧州を中心に幅広く販売展開していく意気込みだ。

 加えて、筆者が「国産スパコンの逆襲」と言いたい背景には、1980年代後半から90年代半ばにかけて日米間で激しいやりとりが繰り広げられた「スパコン貿易摩擦」の記憶が深く残っているからだ。当時、筆者は新聞記者としてこの問題を追いかけていたが、その後、国産勢は劣勢になり、グローバル市場での競争力を失っていったと記憶している。

 富士通の発表会見では輸出規制に関する質問も出たが、「かつては輸出規制に関して厳しい時期もあったが、今はそれほどではないというのが経済産業省の見解だ。グローバル展開では今後も(トラブルにならないよう)経産省の支援をいただきながら進めていく」と、現状ではとくに問題がない様子だった。

 だが、折しも新たな貿易の仕組みにもつながる環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が交渉参加方針を表明したタイミングである。TPPがスパコン分野にどのような影響を与えるかはわからないが、かつての貿易摩擦のような逆風が国産スパコンに吹かないように注視したい。

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