調査結果から見えたクラウドへの“本音” 〜クラウド事業者の選択に不可欠な3つのポイントとは〜IT部門650人の調査にみるクラウド新潮流 「失敗しないクラウド」とは

情報系、基幹系、国内/国外を問わず、クラウドの普及が加速している。ただし、現状では、セキュリティやコストの面で懸念を拭いきれないユーザー企業も少なくない。それでは、さまざまな課題をクリアしつつ、競争力を強化するために、どのような観点からクラウド事業者を選ぶべきなのだろうか。2012年6月に企業のクラウド/ICTアウトソーシングの動向調査を実施したITRの舘野真人氏にそのポイントを聞いた。

» 2012年07月17日 10時00分 公開
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アウトソーシング戦略の有力な手段として、クラウドに注目する企業

ITR シニア・アナリスト 舘野真人氏

 日本企業の間に、クラウドコンピューティングは着実に浸透している。ITRが2012年6月、従業員500人以上の日本企業を対象に行った調査の結果によると、クラウドサービスを積極的に活用していくべきだと考える企業は77.8%と全体の4分の3を超える。ITRの舘野真人氏はこの結果について、次のように補足する。

 「クラウドが普及しつつある中で、多くの企業が『IT資産の持ち方』を再検討しています。保有すべきか、サービスとして利用すべきか。あるいは、集中化が望ましいか、分散すべきなのか。こうしたIT戦略を実践していく上でシステムのアウトソーシングは重要な要素であり、その有力な手段としてクラウドをとらえている企業も少なくありません。今回の調査でもアウトソーシングの活用を推進している企業の9割が、クラウドにも積極的な姿勢を示しています。思った以上に、両者の間には強い相関がありました」

 従来のITアウトソーシングの場合、システム開発を担当したITベンダーに「運用も任せる」というケースが多かった。現在、アウトソーシングの選択肢は広がりつつある。最近のさまざまな技術進化によって、アウトソーシングの手段としてのクラウドが現実的なものになってきたからだ。舘野氏は「システムを外部に任せたい、あるいはシンプルにしたいという企業にとって、クラウドは重要なキーワードとなっています」と指摘する。

懸念/不安を拭い去ることへの“本気度”が問われるクラウド事業者

 クラウドをテコに、システムのあり方を見直そうと考えている企業は多い。しかし、現状では多くの企業が本格導入に至っていないのが実情だ。舘野氏は「今後はクラウドの導入意欲が高まっていくのは明らかですが、現状では多くの業務において『自社構築+自社運用』が圧倒的多数を占めています」と指摘する。

 導入意欲や導入の必然性が高まる一方で、まだまだオンプレミスで運用しているケースが圧倒的に多い。どうして、こうしたギャップが生まれるのだろうか。「理由はいろいろ考えられます。もちろん、クラウドの技術が成熟化しつつあり、これからが本格的な普及期、移行期であると捉えることもできるでしょう。しかし、クラウドのメリットを感じながらも、移行への懸念/不安を持っており、二の足を踏んでいる企業が多いこと。これも大きいポイントです」と舘野氏。調査でも、クラウドに対して懸念を抱いているユーザー企業は少なくない(図1)。

図1:オンプレミスからクラウド移行への課題。セキュリティを課題に上げる企業が最も多く、次いで投資効果が挙げられた。既存システムからのマイグレーションをサポートできるかどうか、可用性やネットワーク帯域といったインフラの信頼性に関する懸念もある

 「1位のセキュリティと2位の投資対効果は、予想通りでした。意外に多いと思ったのは、既存システムからのマイグレーションです。既存システムをそのままクラウドに移行したいと考えている企業が多いことが、その背景にあるのかもしれません」と舘野氏は語る。ここで注目すべきは、課題のほとんどが最近指摘され始めたことではなく、クラウドの黎明期から言われてきている点だ。

 「つまり、クラウドの課題が指摘され始めてからこの数年の間に、どれだけ企業側の立場にたって懸念/不安を拭い去る体制やサービスを整えてきたか。これがクラウド事業者としての必須条件だといえるでしょう。逆にユーザー企業としては、“自社の懸念・不安に対する具体的な回答や蓄積があるか”を事業者選びのポイントにするといいでしょう」(舘野氏)

 例えば、クラウドサービスの信頼性や可用性を不安に思うのであれば、そのサービスを支えるインフラの信頼性やその基準までチェックする必要がある。大切なデータを消失したり、大規模な障害が起きたりした後では取り返しがつかない。

 「インフラの信頼性には、ネットワークやデータセンターの堅牢性なども含まれます。しかも、グローバル展開を考えている企業にとっては、こうした要素を海外で用意できるかどうかも考えておく必要があるでしょう」と舘野氏は指摘する。

「クラウド」だからという言い訳はもはや通用しない

また、調査結果から導かれたユーザーの本音として、クラウド事業者に対する高い要求も透けて見える。例えば、「アウトソーシング事業者に求めるクラウド戦略」を尋ねた質問に対しては、「コンサルティング・サービス」「クラウドへの移行サービス」「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」など、全ての項目で半数以上が重視すると回答している(図2)。

図2:アウトソーシング事業者に求めるクラウド戦略。「コンサルティング」「移行」「プライベートクラウド」に対するニーズが高い。ただ、全ての項目について半数以上が「重視する」と回答しており、アウトソーシング事業者には幅広い領域でのノウハウが求められる

 調査結果から、企業によってクラウドの活用フェーズやニーズが多種多様になっており、今後は、こうしたニーズに的確に対応できないクラウド事業者は生き残れなくなると、舘野氏は指摘する。

 「これまでクラウドといえば、“必要なサービスを個別に契約する”という認識が強かったと思います。しかし、調査結果からは、“ITの構築・運用の全体最適化の推進”という目的の中にクラウドが位置づけられつつあることがうかがえます。また、基幹系のように、各社の業務プロセスが詳細に反映されるシステムのクラウド化に対しても関心が高い。その上、国内外の複数の拠点向けに共通のサービスを提供するようなケースも出てくるでしょう。こうしたニーズにトータルに応えていくために、クラウド事業者には、インフラやアプリケーション・サービスの提供に加えて、オンプレミスからクラウドへの移行、クラウド導入後のサポートまで、さまざまな支援が提供できる必要があります。もちろん1社で全てカバーできない場合は、パートナーとの連携の強化やクラウド同士の相互連携性を高める工夫も必要です。また、クラウドの独自性・自在性を確保しつつも、運用業務を効率化したいというニーズも高まってきているため、クラウドサービスやインフラ周りを一元的に管理する仕組みも求められてくるはずです」(舘野氏)

 クラウドを活用していく上で、クラウド自体がビジネスの足かせになったのでは、導入する意味がない。つまりユーザー企業の“欲張り”な要求は「クラウドだから」といった理由でさまざまな制約を受けたくないという考え方の裏返しとも言えるだろう。

 例えば、よく指摘される「データセンターの拡張性」においてもこうした考え方が垣間見えるという。

 「実際の調査でも、データセンター内での拡張性だけでなく、データセンターをまたがった拡張性も重視されています。また、複数データセンター間でのデータ移行、バックアップに対するニーズも高い。東日本大震災の影響もあるのでしょうか、海外を含めて複数サイトを統合管理したい、あるいは二重化したいという声が高まっています。また、それら全体をユーザー側でコントロールしたいというニーズもあります。事業者としては、現状の技術的なハードルをクリアして、そのような環境を用意する必要が出てくるでしょう」(舘野氏)

 つまり、必要なサービスを、国内外のどこであろうとも、必要な形で使えるサービスを提供するために、クラウドの制約を取り払う努力をしているか。これがクラウド事業者選びの2つ目のポイントなのである。

ビジネスをドライブするクラウド活用とは?

 以上、クラウド事業者を選択する際のポイントとして2つを挙げてきたが、最後の3つ目として舘野氏が挙げるのが、企業のクラウド活用の目的を理解し、ビジネスをドライブするクラウドをいかに構築するかという点だ。この観点で関心が高まっているのがシステム統合である。

 「クラウドのビジネス効果を追求するために、今後はシステム統合がさらに加速します。今回の調査で、特に旺盛な意欲が見られたのがサーバとアプリケーションの領域です(図3)。拠点ごとに置いているサーバやアプリケーションを統合することで、運用コスト削減と同時にビジネスのスピードをアップさせることができます。例えば、エリアや事業部ごとに異なる販売管理システム、顧客管理システムなどが動いている企業は少なくありません。これをグローバルで統合すれば、何らかの機能追加を求められたときにも最小限の修正で迅速に対応できます」

図3:システム統合への取り組み状況。今後のシステム統合領域として、「サーバ」と「アプリケーション」を挙げた回答が多い。サーバとアプリケーションについての統合意欲は高く、これがプライベートクラウド志向を強めていると考えることもできる

 加えて、グローバルで同じ経営指標をすぐに参照できるのも、システム統合の重要なメリット。つまり、経営の見える化である。

 システム統合を一気にクラウド上で実施することも可能だが、「多くの企業は、物理環境⇒仮想統合⇒クラウド化という手順を踏んで統合したいと考えています」と舘野氏。当然、クラウド事業者はこうしたニーズに対応する必要がある。そこで、求められるのは統合や移行を支援する能力だけではない。

 「特にグローバルでシステムを統合する場合、そのサービスを世界中のユーザーが快適に使えるような環境を用意しなければなりません。つまり、クラウド事業者にとって、アプリケーションやインフラを中心とした、統合後のデリバリー能力は非常に重要。この点も含めたトータルなサポート力が問われます」(舘野氏)

 2000年代前半からシステムのシンプル化、あるいは統合に取り組んだ海外企業に比べて、日本企業はこの面での取り組みが遅れている。つまり、クラウドをトリガーにしたシステム統合は、多くの企業でこれから本番。最大の成果を上げるために、自社ニーズにあったクラウド戦略を立て、その戦略に沿った事業者を選定すること。これがクラウド利用を成功させるための、重要なテーマだと言えるだろう。

まとめ:クラウド事業者の選択のポイント

1.企業の持つ懸念/不安の払拭へ“本気”で取り組んでいるかどうか

⇒セキュリティやマイグレーションなどのサービス提供に力をいれているか

2.企業のニーズに対応して、クラウドの制約を取り払う努力をしているか

⇒必要なサービスを、国内外のどこでも、必要な形で使えるサービスを提供できるか

3.ビジネスをドライブする仕掛けとしてクラウドを捉えているか

⇒ビジネス効果を最大化するために、トータルに企業を支援できるか


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アウトソーシングニーズが高まる一方で、幾つかの課題もあるクラウドの活用。企業の抱える不安やニーズに対してクラウド事業者はどのように対応しようとしているのだろうか。企業競争力を高めるためのクラウドとICTアウトソーシングのこれからの姿を概観してみよう。


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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年8月16日