新入社員がセキュリティの過ちを犯さないための教育のツボとは?萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/2 ページ)

新年度がスタートし、新人を迎える職場も多い。今回は情報セキュリティやコンプライアンスに関する新人教育の場で研修担当者が注意すべきポイントを解説してみたい。

» 2014年04月04日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 筆者は、35年ほど前の入社2年目に、所属していた部門で研修担当をしたことがあった。先輩方が実施した研修内容をもとに効果的な方法を検討しながら、4月から5月にかけて実施したものだった。その経験はいまの仕事につながっており、毎年40回程度をこうしたセミナーや研修を全国で行っている。

 さて、前置きはこのくらいにして、情報セキュリティやコンプライアンスをテーマに新人研修を行う時のポイントを解説しよう。

目的を明確にする

 当たり前のようでいて、実はこのこと自覚しないまま講義をしてしまう担当者が多い。特に社内の人事部研修などでは、文字通りテキストを「棒読み」している。心の中で「ほかにもたくさん仕事を抱えているのに、なぜ新人研修まで担当しなければならないのか。君たち(新人)はありがたく聴講して、当社に役に立つ人材になってくれ」とつぶやきながら講義をしているようにも思える。

 それなら、新人に対して「最も伝えるべきことは?」「自分の経験で間違いしがちなことは何か?」といった伝えるべき点を明確にして、集中的に講義する。「就業規則は全部大事なんだよ……」という姿勢は失格だ。これだけは伝えないと後々に困ること、何が取り返しのつかないことになるかを、正確に伝えなければならない。

誰もいないところで必ずリハーサルする

 研修担当者の中には、「もう8年同じことをしているから大丈夫!」と自信満々の方がいる。これは「愚か」と同義だ。筆者が最も長く手掛けているセミナーは、金融向けの情報セキュリティ管理者養成コース。2日間でのべ15時間以上も話しているのだが、例え演題が同じものでも、ほぼ毎回新たな内容を作成している。

 セミナーには、毎日現場で苦労されている担当者や管理職、役員も来られるので、内容を毎年見直しないといけない。最新の統計数字やコメントの修正、新しい情報セキュリティ事件の追加、サイバー攻撃や内部犯罪の最新動向など、受講者は専門家を目指す方々なので、講師の立場では彼ら以上に情報を掌握し、最新の知見をお伝えしなければならないためだ。

 そうした中での基本は、受講者に伝えるべき内容が指定時間の枠に収まるのか(オーバーすることは好まれない)、どのくらいのスピードで話すべきか、時間内に収まらない時はどの内容をそぎ落とすのか――事前に必ずリハーサルする。

 筆者の場合、数回(章単位)に分けて深夜の書斎で実施している。強調すべきことを確認し、「つい先週の事件をココで解説すると喜ばれるかも」といった内容を挿入したり、冗談で流せる部分や真剣に伝えるべき点なども頭に入れる。

 新人研修の担当者になった場合、「社内だし、しかも新人だし……」と気を抜いてはいけない。疎かにすれば、担当者に対する新人たちの評価はいわずもがなだ。最近では人事考課で部下が上司を評価するケースも増えている。新人研修を任された本当の狙いを良く考えてほしい。まず頭で考えるよりも先に実践であり。リハーサルしてみると、意外な効果に多々気付くことができるだろう

マンネリムードは相手に伝わる

 仕事柄、セミナーを聴講する機会も多い。そこで感じるのは、特に情報セキュリティのセミナーではマンネリ化を絶対に避けることだ。前回と同じテキストを利用するくらいならまだ許せるが、解説内容まで録音アナウンスのように話すのはいただけない。これは受講者を馬鹿にしている。

 ある企業で実際に聴講したセミナーでの講師の失敗点と対策を紹介したい。

1.声が小さい。50人程度の講義だが、マイクを使っていても一番後ろの席に座っていると聞こえない。これでまずは失格。マイクの音量や調整具合は事前に把握しておく。

2.テキストを棒読み。それならテキストを配布して理解度をテストする方がマシ。だが、情報セキュリティはそういう性格のものではない。講師の工夫次第で“生きた”セミナーになる。

3.参考の統計資料が古い。最新の状態を把握するのが難しくても、せめて一世代前くらいの資料は用意すべきである。

4.最新技術に触れない。スマホやSNS、クラウド、ビッグデータなどについて「従来の知識では役に立たないので……」と逃げ腰だった。、従来の知識の延長線では既に役に立たない領域が増大していることを自覚していない。

5.質問に正面から向き合わない。新人の質問に、「ここではあまり関係ないので、別の機会に」「それは把握していないので、別の機会に」といって逃げ腰になる。新人の質問に向き合うことが、講演の進行などに影響することはほとんどない。

 結局この講師は何も知らないようだと、聞いていて確信した。講師として簡単な質問内容すら理解できないのは問題だが、講師も万能ではないので、答えられないことがあるのは仕方ない。せめて「自分の勉強不足で申し訳ない。明日までには調べて伝える。こういう質問は大歓迎だ」くらいに応じていただきたい。

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